書き文字

2006年3月3日 カテゴリー: グラフィック, タイポグラフィー, 国内

書き文字

お店を彩るたくさんの手書きの値札。POP文字

現在公開中のTHE 有頂天ホテルを見た方は、この中にどのくらいいるだろうか?ホテルを舞台に繰り広げられるコメディーなのだが、映画の話はさておき、オダギリジョー演じるホテルの「筆耕係」、これに驚かされた。映画を見ていない人のために簡単に説明すると、筆耕(ひっこう)係というのは字を書く事を専門とする人で、ホテルで行われるイベント—例えばパーティーようの垂れ幕や、宴会場の案内看板、結婚式の席札や式次第など、字に関するすべてを担当する仕事だ。へー、こんなお仕事が!コンピュータになれすぎてて、文字は印刷のみ、と思い始めてたよ。


筆耕のお仕事の一つ、宛名書き。特に結婚式の宛名書きなどはポピュラーな仕事

パーティーや授与式でよく見られるリボン。これもプロによって書かれている

気になって後で調べてみたところ、ホテル以外でも、筆耕というお仕事を専門にしている会社や個人は多く存在しており、例えば表彰状や卒業証書、招待状に案内状の宛名書き、お祝いののし袋などなど、毛筆の手書きを生業とするプロが各地にいるのだ。このコンピュータの時代に、手書きは結構必要とされているものなんだな。確かに、仏事やお祝い事なんかだと、手書きじゃないと失礼という場合もあるのかも。

日本人にはおなじみの表彰状や感謝状。すべて手書きで書かれているものと、名前や日付の部分だけ書き込むタイプもある

例えばサイズや素材的に印刷が無理だから手書きという場合。素早さを求められる場合。手作りならではの温かさを求めてなど、手書きが必要とされる理由は多々あるのだろうが、その中でも理由の一つとして考えられるのが、日本語の特殊性だろう。

その昔(16世紀末頃)海外から活版印刷の技術が渡ってきた時、活字(文字の一つ一つを組んでページを構成する)文化はなかなか浸透しなかった。まず漢字の量が膨大で、鋳型を簡単には作れなかった事。そして連綿体と呼ばれるひらがなを続けて書く事が当たり前だったその時代、一字一字切り離すことが不自然だと受け止められた事などがあげられる。他にも理由はあったが、活字よりも整版(一枚の木版を彫って版をつくる)の方が自由が利くという事で盛んに行われた。

連綿で書かれたひらがな。普段の生活ではあんまり見ない

とにかくそんなわけで、日本の文字と活版印刷はなかなか相容れないものがあったわけだ。今はひらがなも続けて書く事はほとんどなくなったし(横書きだと続けて書けないし…)、活字もデジタルフォントに変化してきているが、漢字の数の多さの問題は未だに変わらない。アルファベットのフォントのように、すべての文字に対して行き届いたデザインを施す事はむずかしいだろうし、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットを文中ですべてバランスよく見せる為には、かなりのデザインセンスが必要になる。

それが理由なのか、日本人は単に手作りするのが好きなのか、街を歩くとたくさんの手書きの文字を目にする。いくつか紹介してみたい。

POP文字たち。ハムやサラミと。

POP広告、POP文字という言葉を聞いた事があるだろうか?チラシなどに使われる、独特の丸っこい文字のことだが、私はずーっとポップな文字だからPOP文字を呼ばれるんだと思っていた。でも、これは「Point of Purchase advertising(購買時点の広告)」の頭文字をとってPOPというんだそうだ。へー。この販売促進ツールのPOP文字、最近ではソフトを使って作られる事もあるけど、手書きのPOPの方が良い意味でも悪い意味でも、目に飛び込んでくる。しかも、POP文字にも専門職の人がいて、書き方に一定のルールがあるらしい。たしかにPOP文字の通信講座の宣伝文句「自宅で簡単収入!」とかよく見かけるもんな。


典型的なPOP文字。派手な色で目を引く

POP文字。イラストなどを織り込んで楽しくみせる

POP文字と同じくらい目にするのが、飲食店などの毛筆風看板やお品書きだ。和食店、居酒屋だと、逆に毛筆風じゃないとなんか雰囲気が出ない、とさえ感じる。毛筆風のフォントソフトもかなり出回っているらしいから、毛筆風だからと言って手書きじゃない場合もあるわけだが、やっぱり手書きの方が雰囲気があるかな…。

和食屋さんは毛筆の看板が多い。筆のほうがおいしそうに見えるかも

手作りのポスター。味がある

お食事処。なんとなくお店の中の雰囲気も想像できる

そして最後に、手書きで木彫りな看板。

八百屋さんの看板

手書き文字ではなさそうだが、木の看板。カレー屋さん。素朴なかんじ

今、「字を読めるけど書けない」とか「コンピュータの字は読めるけど肉筆の文字を読めない」という子どもたちが増えてきて問題になっているらしい。デジタルの時代に育ってきた子どもたちが大人になる頃には、愛らしい手書きの看板たちは消えて行ってしまうのかもしれないな〜。

1 コメント

  1. TDCには斉藤君とは映像で作品を出したいね。

    Posted by: ki @ 3月12日2006年

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