オーデッド・エーザ:ヘブライ語タイポグラフィー

2006年1月20日 カテゴリー: Top Page 10, インターナショナル, グラフィック, タイポグラフィー, 特集

オーデッド・エーザ:ヘブライ語タイポグラフィー

オーデッド・エーザによるタイポグラフィー

イスラエル人のオーデッド・エーザ(Oded Ezer)は、タイポグラファーであり、タイプ・デザイナーであり、また講師でもある。ネットで彼の作品を見つけた私は、雷に打たれたよな衝撃を受けた。「絶対彼にインタビューしなきゃ!」壁をはう美しい形の文字に、針金でつられた外国文字、虫に形をかえた文字などなど。オデッドの実験的作品は、驚くほど力強くそして情緒的だ。

この記事は、ヘブライ語圏におけるタイポグラフィーについて、タイポグラフィーの常識を打ち破りたいという彼の強い思いについての、とても鮮やかでかつ詩的な会話の記録となった。

インタビュー:ウレシカ
訳:キョウコ

オーデッド・エーザのタイポ・アートプロジェクト「Room」ポスター

オーデッド、あなたは、一方で商業デザインに携わっているけれど、同時にタイポグラフィーの実験的試みに多くの時間を費やしていますよね?また、これらの実験的作品では東京タイポディレクターズクラブや国際デザインコンペティション名古屋デザインDO!で金賞受賞など多くの賞を受賞されています。商業作品とご自分の実験的作品とに費やす、時間的比率はどんな感じですか?

「Aleph」という、ヘブライ語のアルファベット、一番最初の文字。CCafe のロゴマーク。講義中のオーデッド

僕は、半々くらいの割合にしたいと思っている。でも、最初に言っておきたいのは、自分のデザインを積極的に「仕事」と呼ぶ事は避けたいと思っているんだ。例えばフォントのデザインをする時だけど、自分の存在を忘れてしまっているんだ。そして一つの作品を仕上げた時、まるで夢から覚めたような感じがして、どうやってこのフォントを作ったか何も覚えていないんだ。だから僕にとっては、まるでメディテーションをしているようなものなんだ。

彼のフォント・デザイン

イスラエルのビジュアル・コミュニケーター、David Tartakoverへのタイポグラフィーによるオマージュ作品、「Now 」

あなたが実験的作品を作る目的はなんですか?

第一の目的は、楽しみたいという事。実験って、ぼくにとっては6歳の子どもが真剣にゲームで遊んでいるようなものだと思う。でも、本当になにか面白いものを作り上げる事ができた時には、新しくて、思いもしなかったものに出会う事ができるんだ。だから、実験の隠れた目的は、タイポグラフィーや単語、一つ一つのアルファベットと向き合う時に、新鮮なアイデアが生まれるようになるという事かな。


タイポ・アートプロジェクト「Room」よりディテール、ヘブライ語の「Zadik」

オーデッドのタイポ・アート・スケッチブックより

オーデッドのタイポ・アート・スケッチブックより

オーデッドのタイポ・アート・スケッチブックより

では、これらの文字はあなたにとってどんな意味があるものなのでしょう?また、なぜ、文字をえらんだのですか?

文字というのは、文化から生まれたもので、また、ある特定のものを指し示すために人間が作り出した記号で、すごく意味があって、歴史も古いよね?僕がしようとしている事は、この文字を作り出すという過程を理解しようとしている事でもあり、この文化的な要素を新たに作りかえる事でもあるんだ。

あなたは主にヘブライ語のデザインをやっていますが、ラテン語のフォントのデザインもしていますよね?どちらがお好きですか?

僕が2000年に日本を訪れたとき、日本の学生の展示会を見に行ったんだ。でも、ほとんどデザインが英語を使っていた。学生の一人に「なぜ?」って聞いた事を覚えているよ。彼の答えは「日本語はたいくつだからです」だった。すごくショックを受けたよ、だって僕は日本語はとても美しいと思うから。

過去20年の間、特にインターネットが僕らの生活で欠かせないものになった90年代の初頭に、英語はとても強力なものになった。どのくらい強力になったかというと、他の言語を話す人間が、自分たちの言葉は十分ではない、と感じるくらいに強力になったんだ。だけど、僕はまったく逆の事を信じているんだ!僕は、英語は退屈だと思うし、他の言語・書き方のシステムはメインストリームに対して重要なものだと思う。だって、新鮮な空気を運んでくれるからね。

フォントと、タイポ・アートの実験

自分たちの言葉を保持して、その言葉で実験を続ける事は、僕がメインストリームに対して提示できる事の中でも、一番大事な事だと思う。でももちろん、英語を使わないというのは無理なんだけどね。

今ってUnicodeのおかげで、いろんな言語をコンピュータのスクリーン上で見る事が出来ますよね?それが新鮮に感じて驚いているんです。この事で、今はメインストリームではない文字システムに、何が起きると思いますか?

長い目でみると、人々は英語に飽きてくると思う。流行は、英語からローカルな言語に移っていくと思うよ。

ここでちょっとヘブライ語について質問させて下さい。ヘブライ語はローマ字と反対で、右から左に文字を書いていきますよね?文中に英語の名前、例えば”Michael Jackson”という文字があった場合、どのように対処するんですか?

「CoPro 2000」ポスター

ああ、いい質問だね!その時だけ「右から左」を「左から右」にスイッチして、また戻すんだよ。その単語が長くて、しかも改行がはいった場合はとっても変になっちゃうんだけど、でもイスラエルの人たちはもう慣れているからね…。今では、英語を使った広告がどんどん増えていっているー世界の他の場所と同じようにね。ヨーロッパや日本も例外ではないはずだよ。まるで感冒みたいなものだよ。

ヘブライ語をデザインする上で、「このようにしなくてはいけない」という決まり事はありますか?

ヘブライ語のフォントデザインではいくつかのジャンルがある。1つ目は過去のヘブライ語の書体から影響を受けたものだ。美しくデザインされた古代の本や、古代のヘブライ語の文字を見る事が出来るよ。過去のフォントのリバイバルだったり、歴史から影響を受けた新しいフォントだったりするけど、これがまず第一のフォント・デザイン法だね。

「Frankrühlya」伝統的なヘブライ語の文字をベースにしたヘブライ語の書体

2つ目のジャンルは、ラテンのフォントから影響を受けたもの。例えば、Helveticaをモデルにつかって、Helveticaのヘブライ語バージョンに見えるように、特徴を取り入れたものなんかだね。

オーデッドの作品。ラテン文字から影響をうけたフォント。「Impacta&Anemia」

3つ目のやり方は、これは僕がすごく興味があるジャンルなんだけど、まったく別の、離れた分野のものから影響を受ける事。例えば自然、科学、建築とかね。

Plasticaのスケッチと、立体のヘブライ文字「Alef」自分の足で立っている

Plastica。立体の文字

ヘブライ語のフォントでしか出来ない事って何かありますか?

ヘブライ語のフォントで、コーヒーが作れるよ。なんて、冗談だけどさ(笑い)。ヘブライ語には大文字がなくて、ぜんぶ小文字の(エックスハイト)の文字なんだ。でも、二通りの書き方がある。一つはプリント(その名の通り、印刷物用だけど)と呼ばれるもので、もう一つはハンドライティングだ。

手書き文字のデザインなんて見た事がないです!そんなものあるんですか?

もちろんだよ!君にそんな質問をされるのも興味深いな。というのも、最近手書きのフォントのデザインをして欲しいというメールをたくさんもらったから…ただ、手書きには問題が1つだけある。それは、ほとんどの場合すごく「やわらない」ものになってしまうと言う事なんだ、「優しすぎる」感じにね。この件に関しては、新たに解決方法を考えなくちゃね!

ヘブライ文字の手書きフォントの例

ヘブライ語のフォントとラテン語のフォントが一緒にうまく機能している好例はありますか?

僕の友達で、イタリア人のフォント・デザイナーFabrizio Schiavi が、Sysという書体をデザインして、そのライト(細)バージョンを僕に送ってきた。それで僕は、Sysをベースにそのヘブライ語バージョンを作ることに決めたんだ。ライト、レギュラー、メディアム、ボールド、という感じで5ウェイトをデザインしてSystezaと名付け、彼に送り返した。そしたら彼が電話してきて、興奮してこう言ったんだ。「信じられないよ!僕が苦労していた細いタイプをヘビー・ウェイトにする問題を君は解決しちゃったんだから!」ってね。このデザインプロセスはまるで対話をしているかのように進行したよ。お互いに、すごく勉強になった経験だよ。

「Sys」と「Systeza」

他には、テレビにデザインした「yes」がいい例かな。ラテン文字のロゴの要素を取り入れつつ、それをヘブライ語の書体にするという依頼だった。だからこれは、ヘブライ文字をどのくらい加工して、ラテン語と調和するようにするか、ということが問題だったプロジェクトだね。

「yes」のロゴと、ヘブライ語の書体

では、あなたの実験的プロジェクトの話に戻りたいと思いますが、あなたが最近まで作業していたシリーズの1つに、バイオ・タイポグラフィー(生物タイポグラフィー)というものがありますよね?(Fimoの)黒い ポリマークレイと、黒いスポンジ、プラスティックで出来た、小さな文字の生き物たちです。このプロジェクトはどのようにして始まったのですか?

自分のスタジオの床で、アリ見かけたとき、「この生き物が半分アリで、半分文字だったらどうだろう?」って想像し始めたんだ。もしも自然が文字を創作したんだとしたら、素敵だと思わないかい?そして、違う文字のアリたちが集まって単語を作り、僕らとコミュニケーションしたら?僕はしばらくの間空想にふけって、そしてこのアイデアが大好きになった。すぐにでもこのアイデアで何かしなくちゃって思って…そして行動したんだ!


バイオ・タイポグラフィーのスケッチ

バイオ・タイポグラフィー、文字の生き物

バイオ・タイポグラフィーの文字たち

初期のスケッチでは、アイデアだけだったんだけど、だんだん形を変え発展していってリアルなものが出来あがった。僕は、映画の一場面のように、文字の生き物たちが「活動」したり、「行動」したり…まるで本当に生きているようなものを作りたかったんだ。このプロジェクトの作業中に一番難しかった事は、「バランス」の問題だね。どこからどこまでが文字で、どこからどこまでが虫なのか、という線引きが難しかった。

あなたは文字を操ったり、舞台の上の演者のように配置したりして、文字を立体のオブジェに仕上げましたよね。では、文字の読みやすさはあなたにとってどのくらい重要ですか?どのくらい、認識できる形であるべきだと思いますか?

必要なのは、人がどのようにして文字を認識するかという事を、よく理解する事だね。でなければ、1つの文字を必要最小限まで削ぎ落とすことなんて出来ないもん。僕は、作業しながら学んでいるところさ。一般的に言って、読みやすさというのは、僕の実験にとってはあまり重要じゃないな。なぜなら、これらの文字を見て受けとる気持ちの変化の方が、読んで受け取るメッセージよりもっと大事だと思うから。

ぱっと見て、心が動かされる事って、特にあなたのポスターのデザインに当てはまる事だと思います。例えば「The Message(メッセージ)」というポスターですが、私はすごく好きなんです。このデザインで、紙を切り取って使おうと思ったきっかけは何だったんですか?

「The Message」イスラエル人作曲家Arye Shapiraへのタイポグラフィーによるオマージュ

このポスターのアイデアは、もともとはArye ShapiraのCDカバーのデザインだったんだ。彼は、イスラエルで初めて、いや世界的にも、クラシックの世界で作曲にコンピュータを取りいれた作曲家のうちの一人なんだ。彼は政治家のスピーチをバラバラにカットして、その素材で音楽を作った。だから、彼の音楽はとても硬質で、時には壊れているようにも思える…それで、僕は、曲のタイトルに使われている文字を、1つ1つ紙を切りとって作った。意図としては、もしも文字が音楽だったら彼らはどのように動くんだろう?って事だった。その結果、最終的にはまったく読めないものになってしまったけど、とても力強い絵が出来上がったんだ。

あなたのポスターはどれも基本的にはとてもシンプルで、あなたが作ったタイポグラフィーのオブジェの美しい写真で構成されていますよね?ところで、なぜ手作りのタイポグラフィーなんでしょう?実験にコンピュータを使わない理由はなんですか?

「Stami Veklumi (Unimportant & Nothing)」イスラエルの詩人、Yona Volachへのタイポグラフィーによるオマージュ

僕はコンピュータは大好きだよ。ただ、1つ問題なのは、特定のプログラムを使って何かをデザインする時って、他の人がやっている事とすごく似通ったものが出来てしまう事…同じプログラムを使っているから当然の結果なんだけど。自分の手で何かを作っている時は、もっと自由で独創的な気分になれるんだ。だから、僕の実験では、コンピュータは復元する時だけ使うんだ。

「Chorus of the Opera(オペラのコーラス)」というポスターもとても好きでした。何かをデザインするとき、通常「なんでも好きにしていい」という自由を与えられているんですか?

この、「Chorus of the Opera」というドキュメンタリー映画のポスター・デザインの依頼を受けたんだけど、これがすごく悲しい映画でね。悲しい感じのデザインを提供したら、彼らに断られたんだ。ハッピーなポスターの方が売れると思ったんだろうね。でも、半年くらい経って、ベルリンの映画祭に僕のポスターを持って行ってもいいか?って彼らが聞いてきた。展示会なんかでこのポスターが注目を集めている事に気がついたらしいんだ。


「Chorus of the Opera」ドキュメンタリー映画のためのタイポグラフィーのポスター

これらの出来事に僕はすごく腹が立った。そして決めたんだ、僕の実験作品をコマーシャルに使う必要はないってね。すごくスッキリしたよ!

今の気持ちは、ある老人の物語みたいだな。聞いた事あるかい?彼は片手には花を、そしてもう片方にはパン切れを持っていた。人々が「なぜ?」と理由を聞くと、彼は「パンは生きるため、花は生き甲斐のために」って答えたんだよ。

オーデッド、今日は本当にありがとうございます!あなたの実験的タイポグラフィーの世界に触れる事が出来て、本当に楽しかった!

2 コメント

  1. [...] イスラエルの変態タイポグラファーOded Ezerのまったく理解不能なエクスペリメンタルな実験やスペルマ(精子)フォントにも、少し前にフランスでの展示の紹介をしたパンクなデジタルグラフィティ集団のGraffiti Research Labによる眼球しか動かす事しか出来なくなったグラフィティライターに目の動きだけでグラフィティを描く装置を作るという感動的な試みにも、まったく負けていない新しいタイポグラフィーへのアプローチ。技術力と表現したい事のレベルが非常に高い。この展示は見に行きたい。触ってみたい。彼らの再生されるタイプに触ってみたい。プログラムとグラフィックどっちもとか、反則。セミトラが特集された記事2つPublic-image.orgPingMag [...]

    Posted by: Semitra Exhibition「tFont/fTime」 セミトラ インスタレーション展 « TKOT! TEXT2 @ 7月25日2009年

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    Posted by: presentation skills training @ 11月11日2011年

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