
©(株)カセヤマ
東京に来て以来、1日に一度は工事現場、建設現場を見ているような気がする。特に今の季節、夜中に工事を行っている人を目にするたび「寒い中ご苦労さま〜」と心の中で声をかけている。そうなのだ。もの作りの現場、修理の現場で働く男性(女性)たちは、ほとんどの場合屋外で、しかも季節季節の厳しい自然条件の中で働く事になるため、肉体的、精神的タフさは必須条件のはず。そんな彼らには、動きやすくて機能的な作業服が必要だが、ここ数年、工事現場を見ていて気がついた事がある。それは、「なんだかオシャレ」という事だ。
作者:キョウコ
工事・建設現場で働く人、とひとくくりにしてしまうのは少々乱暴すぎるかもしれない。それぞれ様々な役割分担があり、それによって作業着も違ってくる。例えば、解体工事に携わる人は、粉塵などが極力洋服内に入り込まないようにツナギを着ているだとか、電気工事に携わる人の衣装には、制電糸が細かく織り込まれているなどがそうだ。他にも、皆さんにもなじみが深いであろう安全靴などは、危険な職場で働く人には必需品だと言えるだろうし、駆け足ではとてもカバーしきれないほど、作業服は本当はとても奥が深い世界だ。今回は特に、鳶という職業の衣装を見ていきたいと思う。

工事現場の横で交通整理をする警備員。道路にはみ出しての仕事なため、目立つ反射素材付きのコートを着用

舗装工事。熱したアスファルトの上を歩くため、分厚い革製のブーツを使用していた

塗装の仕事。コンクリートなどが服に付着するため、使い捨てもできるお手頃価格の服を着る事も。また、しゃがみ仕事も多いので、ブーツなどの深い靴ははかない

下水工事。長靴とビニール素材の服を着た人が多かった
まず、鳶(とび)のお仕事とはなにか?もともと、江戸時代に鳶(とんび)のくちばしににた鉄製の鉤、鳶口という道具を使って、高い建造物の作業に従事していた職人のさんの名前から来たそうだけれども、現在では土木・建築工事の高所作業専門の職人の総称ともなっている。とにかく、特の高所などの危険な場所での作業が多い鳶の職人さんは、現場の花形的存在。昔からオシャレで粋な人が多いという。

高所での仕事が多い鳶の職人さん
©(株)カセヤマ

鳶口とよばれる道具。くちばしに見える
では、鳶職人さんの衣装を見ていくとしよう。まず、手首の部分につける手甲(てこう)。リストバンドの様に汗を拭うのにも使われるが、手首の動脈をまもるためや、袖がびらびらして何かに引っかかったりする事を防ぐためにも使われているそう。次は地下足袋。裏面の素材がゴムになっていて、長さもふくらはぎあたりまでと長いもの。コハゼとよばれる金具で、太さを調節しできる。地面の感覚がつかみやすく、軽くて、雨にぬれても乾きやすい。今では安全面も憂慮して、指先に鉄芯が入った安全地下足袋もあるそうだ。

手甲。裏側にも鮮やかな色を使用していて、見えないところでもオシャレする職人の粋を感じる

地下足袋

安全たび。つま先には鉄芯がはいっていて固い

「AQUA TABI」長靴のたびもあった
そして、多くの人が鳶の特徴としてあげるズボンを見て欲しい。下の方がバルーンみたいにダブついているのが特徴だが、タブついている理由としては、ピチピチのジーンズではしゃがむのが困難なように、布に余裕があるため、足を広げたり、膝を曲げたり、とにかく動きやすいという事が第一の理由だそうだ。

鳶のズボン。下が膨らんでいる

いろんな形のズボン。「カセヤマ」のカタログvol.18より ©(株)カセヤマ
他にも、猫のひげの様に、何かがあたった時に感知するセンサーとしての役割を果たすという説や、高所での作業が多いため、旗のように風の強さをはかるためという説、汗などで衣装が肌にまとわりつかないようという説、また誤って鉄くぎなどを落としてしまった時に、ヒラヒラにあたって下に流れて体を傷つけないなどの諸説がある。また、ダボダボのしたは急にすぼまっているが、これはふくらはぎをギュッと締め付ける役目をするそうだ。締め付ける事によって、ふくらはぎがポンプのように血の流れを活発にし、むくみを防ぐという。

最近は、ひらひらの部分がだんだん足首の方まで長くなっているものが増えているそうだが、このようなはやりはここ20年くらいの事だという。「もともと体を保護するものだから、破れたものは使えないわけ。あんなにダブダブなもの動きにくそうなのに・・・まあ、はやりだよね。」とは、話を聞かせてくれた日本鳶工業連合会の方の言葉だ。
江戸時代の鳶装束といえば、半纏(はんてん)に股引き(ももひき)、腹掛け(はらかけ)という現在ではお祭の時に見るようなスタイルだったらしいが、明治維新で洋装が導入されるにしたがって、だんだん変化してきた。昭和の初期の頃は、作業をする人は自分たちで工夫をこらし、動きやすさ、保護、保温などの目的で、ズボンに脚半(けはん/きゃはん)を巻き、その上に足袋を履いたスタイルだったそうだ。また、西洋からゴルフズボン、ニッカーボッカーズが導入されたときも、その動きやすさから人気がでたと言う事だ。

今では、さまざまなデザイン、そして色もカラフルなものが楽しめる作業着だが、メーカーのカタログもファッション雑誌かと見間違えるほど、オシャレなものがいくつもある。例えば今回とりよせたカタログの中でも目を引いたのが、岡山にある作業着、鳶装束の有名メーカー株式会社カセヤマのものだ。巻頭には、実際の鳶職の方が粋に鳶装束を着こなした姿が(女性誌などでいう読者モデルといったところか?)。なにこれ、かっこいいー!

実際の鳶の職人さんがモデルに。「カセヤマ」のカタログvol.18より ©(株)カセヤマ

鳶のお仕事をしているご夫婦。「カセヤマ」のカタログvol.18より ©(株)カセヤマ
カタログだけではない。昨年は、工事現場を利用したファッションショーも行われたという。そこでは、ドイツのデザイナー、ベルンヘルト・ウィルンヘルム(Bernhard Willhelm)氏が、鳶装束にインスパイアーされた服も披露されたという事だ。これらの衣装は、パリコレでも発表されたというから、驚きだ。
最近の作業着はファッション性が重視され、機能性に関しては疑問の声もないではないが、実際作業着の専門店に行ってみると、本当に楽しい!はっきりいって、「こんな世界があったんだ〜」と一緒に行ったPingMag編集長のウレシカと、何時間もお店の中で過ごしてしまった。ピンクに黄色に紫、色鮮やかな鳶服が目を引いたし、子供用の作業服なんていうものまで販売してあった。

普通のスニーカーに見えるが、先端に鉄板が入った安全靴

ヘルメットいろいろ

壁一面にかけられた作業服

子供用の鳶服。「カセヤマ」のカタログvol.18より ©(株)カセヤマ
さて最後は、街で見かけた作業員の方の写真と、アンケート結果で締めくくりたいと思う。シャイな方、またはチャラチャラしゃべってられねぇ、という男っぽい方が多かったため、あまり長くは話してもらえなかったが、彼らの心意気、感じて欲しい。
衣装は会社からの支給ですか自分で買うのですか?
この質問には「会社からの支給。カタログを見ながらみんなで候補を挙げて、その中からお揃いのものを選ぶ (土木関係)」「全部自分で。お店には行かず、カタログで買う (大工さん)」「会社からのものと自分で買ったものの組み合わせ(解体工)」など意見が分かれた。
服を選ぶとき何が一番大事ですか?
「ポケットの数。どこにいくつあるかを見る。携帯やペンをたてるスペースが多いものを好む(土木)」という具体的なものから、「色、見た目」「動きやすさ」「特になし」という意見も多かった。

土木歴15年の男性のポケット。「色が違うペンをたくさん使うので、胸元にスペースがたくさんないと困る」

川崎でみかけた植木屋さん。ヘルメットの下からのぞく、手ぬぐいがおしゃれだ。植木職人は地下足袋が一番と言っていた
好きなメーカーはありますか?
「ずっと同じメーカーPOPEYEです」「寅壱」「こだわっていない」「会社からの支給だから選べない」など。「こだわっていない」という人が多いようだった。
作業着でタブーなどはありますか?
「特にない。自分が作業できるもの。人に迷惑をかけないものでなければOK」「引っかかるものはだめ。自分が怪我しなくても、何かが下に落ちて人を傷つけたりするかもしれないから」という意見がほとんどで、作業に支障が出なければ、基本的には何を着てもいいようだ。

ペンキ屋さん。特に汚れやすい職業であるのに、あえて白を来ているところが粋。今日は近くで作業をしているので、休み時間に作業服を見に来たとのこと

大工歴10年の男性。「一年のうち300日は作業服を着ているので、色など、自分が好きなものを買いたい」という事
冬服と夏服で、工夫する事はありますか?
「冬場には会社からコートが支給される。夏は夏服というだけで特にない」「防寒用の下着を着込む事くらい」「ズボンの下にジャージを着用」とのことだった。
衣装で、縁起を担ぐことはありますか?
という質問には、意外にも「特になにもしていない」という人が多かった。衣装の話とはすこし離れるが、鳶の世界では、落ちたら死んでしまう、命をかけたお仕事であるため、昔から「命をはった仕事の証」として彫り物を入れる人が多かったという。ただ、桜の花のように、「散ってしまう=落ちてしまう」ようなモチーフはは縁起が悪いとして避けられたそうだ。
質問に答えてくれた大工の男性の言葉にあった、毎日着る服だからおしゃれをしたいという気持ちは多くの人が共感できるものだと思う。機能性はもちろん、ファッション性もそなえた作業服によって、日夜、危険な場所で働く工事・建築現場のみなさんが、少しでも仕事がしやすくなっている事を祈る。そして、改めて「いつもありがとー!」
おまけのコーナー
作業服屋さんでのお買い物の成果をみなさんにお見せしたいと思う!作業服のルールを無視したスタイリングになっているかもしれないが、それは純粋に「お楽しみ」ってことで許して欲しい。


もっと、PingMag作業服の写真が見たい方は、Flickr のフォトギャラリーまでどうぞ!
6 コメント
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子供用の鳶服があるなんてトリビアだね。感動しました。
Posted by: itok @ 1月18日2006年
[...] 楽しいことやちょっとヘンな事をして、それがお仕事になるんだからPingMagの環境って恵まれてると思う。だって、鳶の衣装に金色の足袋をはいて、街中で写真撮影をしても、評判の英国人デザイナー に日本の小さな村に建築予定のお寺についてインタビューしても、駄菓子屋さんに遊びにいっても、なにをしても評判になっちゃうんだからな〜。(…なんていうのはウソだけど、すくなくとも僕らは勝手にクール!って思ってる) [...]
Posted by: PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » Pingケーキが出来るまで @ 1月19日2006年
作業服はとっても魅力的だと感じ、アレンジして宇宙大使という盛り上げダメ仲間で作業服を楽しんでます!クールな記事ありがとう!
光輝くヘルメットIMG
http://www.ohayocafe.com/mailbbs/data/1133011975-051126_0459%7E02.jpg
光り輝く足袋シューズIMG
http://www.ohayocafe.com/mailbbs/data/1133011975-051126_0458%7E02.jpg
Posted by: 宇宙大使◎ソーラー @ 1月24日2006年
[...] ヨガマニアでプログラマーのタケシが、ピーター・スレイドのヘッドフォンをして横たわる。このつなぎに見覚えのある人はいる? [...]
Posted by: PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » Pingmagの誕生日パーティー! @ 8月17日2006年
こんばんは。
鳶ファッション、ユニークでおもしろいなと思いました。
外国人の友人がこのページにを見て、金、銀、銅などのメタルカラーの足袋シューズがすごく欲しいと言っているんですが、都内で売っている所、知りませんか、よろしければ、教えてください ;)
Posted by: coco @ 9月10日2006年
こんばんわ。
私は滝川ともします。鳶職人の友達をなりたい。。。。。 でも私の日本語まだよく下手です。英語をまだよく話します。Hello everybody!my nameistakigawa and Iwould like
to make a lot Of friends. I like computers and most recently tobishoku subjects….my email is takigawa@hotmail.com
Posted by: takigawa @ 8月20日2007年