
「Pechakucha(ぺちゃくちゃ)」って言葉を聞いて、みんなどんな印象を受けるだろう?イギリス出身のジェントルマンの僕のリアクションは、直感的に「お大事に」って言った後、目立たないように一歩後ろに下がって、アヤシイ菌に感染しないように気をつける、といったところか。だけど、東京のデザイン・コミュニティーの人々にとって—そして今はロンドンの人にとっても—「ぺちゃくちゃ」には、全然別の意味があるらしい。「ぺちゃくちゃ」は楽しい。「ぺちゃくちゃ」は分かち合いだ。「ぺちゃくちゃ」は刺激的だ。「ぺちゃくちゃ」は世界中で話題を巻き起こしている大事件で、みんな「なんで自分が思いつかなかったんだろう」とくやしがっているハズだ。
イントロとVol.27のレポート:ジョン
「ぺちゃくちゃ」がなんであるのか、正確に説明するのは難しい。だから、つい上のような「曖昧な」メタファーを使ってしまった。だけど、毎月行われるこの悪名高き「PechaKucha Night(ぺちゃくちゃないと)」とは、基本的には会場に集まった沢山の人を前に、自分の作品、アイデア、妄想、写真など、「デザイン」に関係する事なら「なんでも」発表できる場だ。じゃあ、どうやってって?それは、こんな風にだ。「1人20枚のスライドを用意する。スライド1枚に対して20秒間だけ時間が与えられる。(つまり、1人400秒のプレゼン)」このルールがあるから、「ぺちゃくちゃないと」では、発表者は1秒も時間を無駄に出来ない。自分が一番影響力があると思うベストの作品やイメージだけを選び、そしてそれに合わせて、ナレーションも一番大事な点のみに、しぼりにしぼって発表しなくちゃならない。ところで、「ぺちゃくちゃ」というのは、日本語で「おしゃべりする事」とか「なんたら、かんたら」という意味だけど、この名前に恥じず、いろんなぺちゃくちゃを楽しむ事ができる。示唆に富む一連の写真を見ながらの、リラックスした滑らかな「ぺちゃくちゃ」から、建築学生が自身の試作品やポートフォリオを見せながら、テキパキした2カ国語での「ぺちゃくちゃ」まで、発表スタイルはいろいろだ。
ぺちゃくちゃないとの生みの親は、東京をベースに活躍するクライン・ダイサム・アーキテクツ(KDa)で、東京は西麻布のクラブ、スーパーデラックス(SuperDeluxe)で毎月行なわれるようになって、もう2年以上になる。最近、ぺちゃくちゃないとは、ロンドンのデザイン・コミュニティーへの進出を果たし、非常に好意的な反応を得ている。なんと、Institute of Contemporary Arts(ICA)で行なわれた、「ぺちゃくちゃないと Vol.03」では、400人ものキャンセル待ちが出たそうだ。
「それは楽しそうだけど、どうしてまたweeklyColumnで取り扱うの?」そんな疑問をもった人もいるだろう。理由はこうだ。ちょうど、地球星が芸術座宮に移動し、デザインの神が私達に幸運をもたらしたから・・・別の言葉でいうと、不思議な運命に導かれて、今月は3回もぺちゃくちゃないとがとり行なわれるからだ。しかも、たった6日間という短い期間で。一ヶ月に一度が普通なのに、なんでこんな事になったのか?
先週の水曜日、東京では「ぺちゃくちゃないと Vol.27」が開催され、同じ日に地球の裏側では、「ぺちゃくちゃないと Vol.03」がロンドンで開催された。そしてそして、昨夜、東京では、東京デザイナーズウィークのオーブンを記念して、「ぺちゃくちゃないと」スペシャルが開かれた。(東京デザイナーズウィークとは、11月2日〜6日の5日間、東京のデザイン・コミュニティーや、沢山の大使館の協力のもと、デザインをテーマにしたイベント、パーティ、展示会が開かれ、それに合わせて世界中からデザイナーが集まってくる、一大イベントだ。)このスペシャル版ぺちゃくちゃないとでは東京デザイナーズウィークに合わせて来日した、イギリスのデザイン界の大物、セバスチャン・コンラン(Sebastian Conran)とトマス・ヘザーウィック(Thomas Heatherwick)によるプレゼンテーションも行なわれた。
PingMagは、ぺちゃくちゃないとのエネルギーとオリジナリティが大好きだ。なのでこの3つのぺちゃくちゃないとのリポートを、みんなにお届けしたいと思う!

Vol.27 オープニングの画面。彼らのトレードマークである、お花模様も見られる

休憩(ビール・ブレーク)中のアニメーション
Vol.27は、ぺちゃくちゃないとが得意とする、いろんなスタイルのプレゼンを楽しむ事ができた。真っ当なスライド・ショウから、20秒ずつのビデオクリップ集、街頭演説よろしく大声でデザイン哲学を叫ぶ人、学生による作品の売り込み、明らかに酔っぱらっている人、まったくしらふの人、声の大きい人、蚊の鳴くような声で話す人、などなど。それではVol.27のハイライトを紹介したい。

Todo Takanaoの空気のようなプリズムの部屋

キラキラ光っている
まず最初に、トウドウ・タカナオ(Todo Takanao)を外す訳にはいかないだろう。ロンドンで建築の勉強をしてきたという彼は、現在日本でインターンシップを探しているとの事だったのだが、とにかくエネルギッシュで、わざとのように慌てふためいたトーンでしゃべる。彼のキャラクターに観客はすぐ魅了された。彼が発表したのは学生時代のプロジェクトで、広場にギャラリーなどに適した公共の建物をデザインするというものだった。この建築物は円形で、垂直に並べられた何百という小さな三角プリズムで構成されていた。なぜって?Todoがいうには、プリズムは本来透明だが、彼があみだした配置によって、建物の中が外からは透けて見えないというのだ。どうやら光の反射の仕方を計算して配置されているとのことだった。 光線光学を理解したとても印象的なプレゼンだった。さらにTodoはCGのアニメーションで建物を再現しており、より分かりやすく彼のアイデアを理解する事ができた。素晴らしい作品だった。

「ひしゃげた」形のオフィスビル

「ひしゃげた」形のホテル
次に紹介するのは、最近デンマークから日本に引っ越して来たというヤン・タナカ(Jan Tanaka)だ。空間を有効活用するというテーマのもと、過去に関わったプロジェクトをプレゼンした。例えば、ウォーターフロントにあるオフィスビルでは、単にある側面が海に面しているというだけでなく、どのオフィス・ユニットからも、ちゃんと海が眺められるようなデザインのビルがそうだ。建物を長方形にせずに、わざと「ひしゃげた(concertina)」ような形にする事で、これを実現できるという事だ。

忘れるな、あなたはいつか死ぬ
次は、僕と同じイギリス人のクリスピン・ジョーンズ(Crispin Jones)が、「社会時評としての時計」という作品のユーモラスなビデオクリップ(ちゃんと20秒ずつに編集されてた!)で観客を楽しませてくれた。実際の時間の替わりに、「忘れるな、あなたはいつか死ぬ」という言葉がディスプレイに現れるる事で、ちょっとした謙虚さを日常に吹き込もうという時計。嘘発見機が内蔵されていて、時計をつけている人が嘘をつくたびに、「ウソです」と赤い文字が現れ、周りのみんなにばれてしまう時計などが紹介された。このビデオが見たい人は、クリスピンのサイトに行ってみて!

こじゃれたビール

こじゃれたソース
最後に、観客が大喜びした「ぺちゃくちゃ」を紹介したい。コンサルティング会社「GDR」の役割は、新鮮なデザインを世界中から見つけ出して、大企業に紹介することだ。大企業は、市場調査の目的でそれを使用したり、自分たちが探していたようなエージェンシーに出会う事が出来るわけだ。とにかくそのGDRを代表してルーシー・ジョンストン(Lucy Johnston)とカテリン・フレージャー(Katelyn Fraser)の2人が、マシンガントークを披露した。20枚のスライド・ショーの間、1枚おきに交代で話をしていたのだが、「ちょっっと、ほら私の番!」「黙れ、次私よ!」と自分のプレゼン時間を最大限利用するため、時間を奪い合っていた。彼女達が見せたスライドでは、「エンポリオ・ペローニ(Emporio Peroni)が出した新しいビールの店頭展示などが紹介された。その展示の仕方というのが、店の中央に台座が置かれ、その上に一本のビール瓶が展示される。そして、その前に巨大なイタリア人のセキュリティー・ガードマンが陣取り(まるで宝石でもガードしているかのように)ビールに近づけないという大胆なものだった。他には、ポール・スミス(Paul Smith)がデザインした限定版のHP ソースの瓶(HP ソースというのは・・・茶色いケチャップのようなものなんだけど)も個人的には好きだった。この、HPソース、どうやら一般の人が手を出す前に、ポール・スミスのスタッフが、すべての瓶を買い占めたらしい。とにかく、彼女達のプレゼンは、内容もさることながら、「ぺちゃくちゃ」っぷりももとてもエキサイティングで楽しかった。

ぺちゃくちゃないと ロンドンは、またしても、特別な夜を僕たちに運んでくれた。インフルエンザを打ち負かそうとして、間違って睡眠薬を飲んでしまったというフラフラのモデレーターも、その夜をより特別なものにしていた。
ロンドン Vol.03のレポート:Mazen Touma

ICAに集まった観客
13のプレゼンテーションが行なわれたこの日、テーマもさることながら、与えられたこの舞台をどのように有効に使うかという戦術も、みんなさまざまだった。Damian BarrとRowan Pellingによる「blithe(軽率な)」という用語と、そのどこにでも存在する妥当性に関しての、素晴らしい掛け合い(例えば、テロ事件の後でセックスへの欲求がつよくなる、という話など)を皮切りに、バラエティにとんんだプレゼンが始まった。
観客は、Michael Johnson の「Zag-Zig thinking(ザグジグ思考)」の容易さに喜んだり、この機会に(特定の公園での)公共空間の必要性を説いたIDE- ArchitectureのJohn Nordonが、彼のスライドのほとんどに、自分の子ども達を登場させるという心温まるプレゼンに和んだりした。
The Viral FactoryのMatt SmithとEd Robinsonは、この晩を大いに盛り上げ、「面白さ」という点で「ぺちゃくちゃ」のハードルを挙げた。「インターネットという常に進化し続けるメディアに対するリアクションとしてのオンデマンド文化」について彼らの口から溢れ出る、光速のおしゃべりに観客がついて行っていたかは定かではないが・・・。ひょっとしたら、彼らの感染しやすい強烈なイメージの方が、メッセージを明確に伝えていたかも。どちらにせよ、この2人が、観客からの笑いを勝ち取ったのは確かだった。

DSDHAによる幼稚園
これらの比較的軽めのエンターテイメントの後、DSDHAのDeborah Sauntは、「edge spaces(極端な空間)」というまじめな内容のレクチャーで、会場の空気を平熱に戻す事に成功した。どのようにして、「ペンチをベンチとみなすか、ベンチを更衣室とみなすか?」という決定の仕方に、妥当な疑問を投げかけた。観客は、幼稚園の正面に施された、半透明のポリカーボネート素材の被覆加工を大いに気に入っていたし、「ぺちゃくちゃ」に出席していた建築家達は「Fosters and Partners」のようなロンドンの市場のトップを走る競合企業について彼女の意地の悪いコメントを、ちょっとだけ同意しつつ、楽しんでいた。
次にプレゼンしたのは、この上なく冒険心のあるエンジニアのオフィスArupのディレクター、Roger Ridsdill-Smithだった。Rogerは、フットボールと、それがアメリカでは、特別な道具と複雑なルールを使って派生した事を分析して、彼が「inevitable design(必然のデザイン)」と呼ぶメカニズムを図解した。いくつかの統計資料と少しのユーモアで、Rogerはとうとうイングランドがレンガで家を建てるのを止める時が近づいていることを証明してみせた!客席の建築家達からは、喜びと安堵の声が上がった。
FredriksonStallardのPatrik FredriksonとIan Stallardのプレゼンは、まったく違った趣をもっていた。彼らは、暗闇やシンプルさに対する自身の執着を告白した。まず、彼らは「lying materials(嘘つきな素材)」というカテゴリーを紹介した。例えば、ピンクや黄色の断熱材は、フワフワでいかにも気持ち良さそうに見えるが、その外見とは反対に、さわったり、吸い込んだりしたら有害だ。このような、ちょっとした皮肉をおりまぜつつ、彼らは自分たちがデザインした敷物を提案した。これは、彼らなりのロマンティックなアイデアを表現した敷物という事で、左右対称に置かれた血液のようにねばねばした2つの液体で出来ていた。

プレゼンするMoritz Waldemeyer

何千と言うスワロフスキーで出来た、シャンデリア
Moritz Waldemeyerは、外見の美しさだけでなく、使いやすいアイテムを作り出す事に全力を傾けている。今年のミラン・デザインウィークで発表されたのは、何千と言うスワロフスキーのクリスタルで出来たスパイラルのシャンデリアで、携帯電話から送ったテキスト・メッセージを、ディスプレイ出来るというものだ。また、Shoreditch(ロンドンの地名)のポストに設置されたうるさいスピーカーのインスタレーションも彼の作品だ。このスピーカーにも、テキスト・メッセージを送る事ができ、コンピューターでそのメッセージが自動的に発表されるというものだ。確かに、非常に重要な発明とは言えないか知れないが、でもこんな作品がなかったら、世の中はもっと悲しい場所になると言えると思うんだけど。どうかな?

Moritz Waldemeyerのデザイン

Parayam Sharifiのバッジ
前半のトリを飾ったのは、Parayam Sharifiによる深みのあるアートと文学のプロジェクトだった。2002年のカンヌ映画祭で彼がばらまいたというバッジで、観客を多いに湧かせた。そのバッジには、、「I was raped by Polanski(ポランスキー監督にレイプされた)」なんていうスローガンや、グローバル化に対する説得力のある批判などが書かれたいた。
後半戦で秀でていたプレゼンは、Doshi LevienのNipa Doshiによる社会学的アプローチのプレゼンだった。彼女はスライドを、最近のインド旅行での印象を要約するための純粋なツールとして使っており、Doshi Levien designの全作品を網羅して紹介するかわりに、透明な医師のカバンや、居住環境に合わせてデザインされたカトラリーなど、彼女の母国のデザイン・アイデンティティーの欠落に対する不安を表現した。また、彼女は、カラフルな色づかいがあらゆる所で見られるインドの豊かさが、西半球からの輸入品により排除されつつある現実を指摘した。彼女の最後(20枚目)のスライドは、0000020という番号が振られており、このジレンマに対して、まだまだ言いたい事が沢山ある、という事を表していた。

それに対して、Ron Arad のプレゼンは、話の途中で途方に暮れたような印象を受けた。彼のプレゼンは、テムズ川の南の浅瀬にあるバクシー発電所のホテルデザインについてだったのだが、ひょっとしたら、彼のこの態度は、垂直に昇降するシャトルや、お手伝いさん達のための見えない通路つきのこの豪華なマンション建築プロジェクトが実現出来ないかもしれないという最新のニュースのせいかもしれない。Oh、No!

Ron Aradによる、バクシー発電所のホテルの3Dモデル

Ron Aradによる、バクシー発電所のレストランの3Dモデル
イベントが終わった後、スピーカー達が、スポンサー提供のビールを片手に、全く想像もできないような組み合わせで集まっているのを見るのはとても愉快だった。ArupのRogerは、The Viral Factory連中とおしゃべりをしていたんだけれど、「ネットワーキングの現場を目撃しちゃった」という僕の馬鹿な発言は、将来お互いがお互いのクライアントになるという見込みはなさそうだ、という事でみんなに笑われてしまった。この場にいてだんだんと分かって来た事は、今日プレゼンした多くの人間は、同じようなフィールドで頑張っている人間に自分のやっている事をプレゼンしたくて、また、アドレナリンが出るようななにかを体験したくて今夜ここに集まったんだという事だった。
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