日本の伝統的な衣装である着物。きれいでうっとりする着物に使われる絹の生地に染めの技術はかかせません。手染めというときれいな水や腕利きの職人さんが思い浮かびます。そんなものは東京には縁がない?!ところが。意外ですが、都心にほど近い新宿区落合の周辺は江戸時代から続く染色の工房の一大地帯であるのをご存知だったでしょうか?電車に乗って10分もしないところでそんな職人技が間近に見れるとあって、今回西武新宿線の下落合の駅まで足をのばしてみました。これはスタンプラリー形式で年に一度「落合ほたる」のみなさんがいつもの仕事の手を止めて、一般の方々に染めの工程を公開してくださるイベントです。
いや、恐れ入りました。布の模様というのは印刷じゃないんですね(当たり前ですが!)イタリアの職人やドイツのマイスターもびっくりの工程の細かさ。模様を考えて型紙を切り抜き、糊で染まらないところをつくって生地全体を染める、というのが基本工程ですが、型紙づくり、糊を置いていく型付け、色着け等、すべて手先の器用な日本人ならではの技術の水準レベルです。最低でも一ヶ月、型紙をつくるところからになると、さらに数ヶ月の作業になります。
「江戸更紗」更紗はインドが発祥なので、どことなくエスニックな模様ですが、実はこういった模様に仕上がるのには同じ図案を描いた型紙を40枚(ときにはもっと)ほどつくり、使用する色ごとに模様を切り抜き、一枚ずつのせて染色していくのです。コンピュータを使う人には単色レイヤーを40ほどつくって最後に画像結合するっていうイメージがわかりやすいかも。
「江戸小紋」は和紙を柿渋で染めた型紙に小さな穴で繊細な柄をつくり、糊をのせて(そこは染まらない)生地を染めて、最後に糊をきれいな水で洗って仕上げます。小紋は江戸時代の大名の裃(かみしも)の図案としてはじまり、しばらくして江戸の庶民の遊び心があらわれた図案が流行しました。「大根と卸し金」の模様なんかもジョークが効いています。意味分かります?「大根役者を舞台から下ろす」の引っかけ。
鎖国の時代、柿渋や草木染め、もち米、と手近にあるものだけで布は染められていました。生地を蒸す工程があるので、工房は食欲をそそる匂いが充満しています。
職人さんに「おじさん何年なの?」「わしゃ50年や」。。。この流れの速い東京の街にずっと長い間、染め物にたずさわっている人がいる…。「変化」することだけが大切なんじゃない。経験の積み重ねが「伝統」を受け継ぐことにおいて大切なんです。
老舗「松綱」の若だんなのことば。「いくら情緒があるからって大阪まで人力車に費用と時間をかけて乗ってくれる人はいない。着物の世界も同じで、やっぱり時代の要求を折り込んでいかなきゃね。」
なんでも簡単に、早く、効率を求める時代にさからって染めの伝統と技術を次世代に伝えていくことは並大抵のことじゃないのですね!
でも、そこには確かに「ホンモノ」がありました。
作者:YO-CO

「染めの里 双葉苑」の玄関にあるキリンのオブジェ。玄関には「麒麟堂」とありました

柿渋で染めた型紙。型彫りはさかんな三重県伊勢にまとめて発注することもあるそうです

このように同じ色を使用する部分を掘っていきます。細かい!

染料別に使用される刷毛

染め付けた更紗の生地を乾かしているところ

型紙を合わせてその上に糊を均一に塗っていきます。型紙合わせがまた至難の業

型合わせや染付けが行われる工房。夏は暑いそうです…

型紙は耐久性があり、何度か再利用が可能。水にしっかりと浸すことで丈夫になります

江戸時代の浮世絵の題材にもなっている水洗いした反物を干す風景

美しく染まった江戸更紗

松綱さんの工房にて。糊のはってある机にしわなく白生地を張る作業

模様の継ぎ目がわからぬように色糊を置いていく作業

これが江戸小紋の大根と卸し金の模様。縦3cm横4cmの中にこれだけの模様をキリで彫る

美しい着物となった布たち。ぜいたくですね

お土産にもらったてぬぐい。染色に使う道具がモチーフになっています
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