渋谷コモン

2005年9月12日 カテゴリー: 国内, 建築, 特集

渋谷コモン

渋谷コモンが提案している、新しい渋谷駅の形。ビルは50mの高さで、森のよう © 渋谷コモン

渋谷区が、渋谷駅周辺の大規模な再開発案「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」を打ち出しているのはご存知だろうか?背景には、2年後に予定されている営団地下鉄13号線の開通や、東急東横線が地下鉄との接続運転をはじめるため、駅の一部をしめる東急渋谷駅が地下に移動する事などがある。このガイドプランで渋谷区が示した新しい渋谷駅の形は、超高層の駅ビルと、歩行者専用のデッキという、駅を中心にした「ピーク型」であった。渋谷に住む一級建築士の渡辺徹氏は、区のプランとは全く異なる「対案」を示すことで、駅周辺整備の議論を活性化させようとしている人物だ。渡辺氏の活動「渋谷コモン」について、お話を伺った。

インタビュー:トム

渡辺さんは、「渋谷コモン」というホームページで、渋谷区が提案しているまちづくりとは、異なったコンセプトを提示していますよね。まず最初に、まちづくりについて興味をもった理由というのはなんだったんですか?


渡辺徹氏

両親が、渋谷の神泉に引っ越してきたのは戦前で1940年くらいの事なんですが、それ以来自分の敷地の中の経営、例えば「どんな家を建てるか?」などについては、すべて我が家のイニシアティブでやってきた訳です。日本の土地の所有権はとても強いですから、各所有者っていうのは、自分の敷地の中については随分自由な事が出来てしまう。でも逆に自分の敷地を離れて、町の道路に面した家並みはどうあるべきか、という事に対しては発言権がないんですね。

海外ではどうか知りませんが、日本には町会という地域組織があるんですね。ただ、町会の機能って言うのは、わりと行政の下請けみたいなところがありまして、例えば地域をどうするか、地域のデザインをどうするか、という問題に対して議論する雰囲気はまったくないんです。僕は、町会の役員になったのをきっかけに、近くの学校跡地で、文化事業をやってくれと頼まれたんです。そこで地域の事をみんなで議論するような環境、そういった事の下地になるような講演会を企画したり、自分でも調べた事を発表したりという事をはじめました。もう7、8年になると思います。

そうしている内に、渋谷駅の開発というテーマが巻き起こったわけなんですけれど。私としては、「これはみんなで議論するのにちょうどいいテーマだな」と思ったんです。もともと興味ないはずないですしね。

さっき、東京の場合は、地主が、かなり好き放題出来るという話が出ましたが、ある意味で東京レベルの大都市が、個人個人の地主の力によってつくられてしまう。だから、ものすごい大きな立派なビルの横に、小さな小さな、言い方は悪いですけど、ぼろい個人の家が並んでいるような事が起きるわけですが・・・

アナーキーなというか・・・

そう、そのアナーキーな感じが東京の素敵なところだと思うんですけど。

うん、魅力でもありますけどね。ただ渋谷でも、あちこちで建築紛争というのが絶えないわけですよ。例えば、2階とか3階建ての街並にですね、道路に面して大きな敷地を確保できたディベロッパーが、15階だてのマンションをポンと建てちゃうような事が起こる。僕は低層の街並、緑のある住宅地等も尊重すべきものだと思うんですけど、日本ではそういった事すら法的に保障されていないんです。これはまさに計画のなさと言っていいかもしれませんね。


渋谷駅、ハチ公口付近

渋谷駅ハチ公口の交差点


まあ、計画がすべてではないし、アナーキーな街並もいいと思います。ただちょっと今の日本は極端だなと思いますね。今後は、地域の人達が、「こういう将来がいいや。」「こういう街並だったら、住んでいたい」と思うようなプランを作って行くべきだと思うんです。誰かえらい人が、「これが将来の東京ですよ」みたいな事でね、エイヤって勝手に決めて、それでみんなついてこいと言われても、これはちょっと無理なんですね。

日本は土建国家なんていいますけど、国の予算の大きな部分が、公共工事に使われている。そして民間の投資の大きな部分が、たびたびの作り替え、「壊しちゃつくり、壊しちゃつくり」という事に使われている。確かにそれで仕事が増えて、GNP大国だといえばそうなんだけど、これだけみんな働いてきたんだから、日常感覚としてもうちょっと豊かな生活ができたはずですよね。平均すれば30年くらいでビルが壊されちゃってますけど、もうすこし寿命が長い方が、みんな豊かになれるんじゃないかという動機もあります。

ある意味で東京は、常に前を見ているというか、今を見ている所ですよね。だからチャンスだと思います。例えばヨーロッパでは、古い建造物を取り壊そうなんて提案することは、とても無理な話なんです。「何を考えてるんだ!」って言われちゃいます(笑)。逆に東京では、「もっといい街になるんじゃないか」という議論をはじめても責められない。少なくともそこまでは受け入れてもらえる場所ですよね。

そうですね。


渋谷区が示した「ピーク型」のプラン © 渋谷コモン

渋谷コモンが提案している「カルデラ型」のプラン © 渋谷コモン


渡辺さんが、どのようにして「渋谷のまちづくり」に関して興味を持ち始めたかはわかったんですが、普通「こうやったら、もっとよくなるんじゃないの?」と思っても、実際に行動まで移す人は少ないと思うんですよ。そこまでやろうという、きっかけはなんだったんですか?

実はきっかけをつくったのは、渋谷区のほうなんですよ。渋谷区が「渋谷駅周辺ガイドプラン21」という委員会を作ったんです。委員長は東大の教授で、他にも各専門家の方々などですが、その委員会の中に住民代表という事で、周辺の町会長さん、それから商店会長さんを加えて、渋谷駅を主なテーマにして、将来像について、議論しましょう、研究しましょうという事を渋谷区が始めたんです。


上空からみた現在の渋谷駅周辺の状況 © 渋谷コモン

私にいわせれば、計画が、アナクロニズムといいますか、時代錯誤な方向に動いているように見えたんですよ。ただね、市民参加で委員会を開くと、資料は全部オープンなんです。つまり、僕らが、この計画の内容を詳細に知る事が出来たわけですよ。そして、委員会に提出される資料って言うのは、鉄道の条件であるとか、バスの路線の細かいデータであるとか、計画とは独立な客観的なデータもたくさんあるんです。そういったデータも手に入るもんだから、じゃあこういうデータに基づいて全然別の未来を描く事ができるなと考えたわけです。


渋谷区側の提案「ピーク型」 © 渋谷コモン

渋谷コモンの提案「カルデラ型」 © 渋谷コモン


それで、渋谷区の駅ビルを巨大化させた「ピーク型」に対して、駅の周辺に主要施設を移転させるという「カルデラ型」のプランを提案したわけですね?

ええ。要するに一般の人はですね、1つのプランしか見せられなければ、議論をすると言ったって、「ここを削ってくれ」とか、「ここが通りにくいから通れるようにしてくれ」とか、その1つの案に対する議論しか出来ないわけです。建築以外の事でも同じです。例えば法律の相談にしても、出てきた案が1つだったら、それに対して「いい」とか「悪い」とか言う議論しか出来ないじゃないですか。そもそも、1つの案しか世の中に出てこなくて、みんなに議論しろというのは、ちょっとインチキくさい感じなんですよ。そういう意味では別に2つで十分というわけではないですが、やっぱり本質的に違う案があって、そこで初めて一般の人は考えるチャンスが出てくるという風に思いますね。渋谷区は市民参画といういい事をはじめたんだけど、複数案を出そうなんて言う気はない。という事で、自分がやるべきだと思ったんです。

渋谷区のプランと、渡辺さんのプランの違いを具体的に説明してもらえますか?

渋谷区のプランというのは、日本の都市計画はみんなそうですが、真ん中に位置する駅部分の容積が一番大きくて、段々下がってくるような容積配分になっていました。当初渋谷区は、巨大な容積のビルを中心に建てて、そこに、商業施設はもちろんオフィスや病院やホールや図書館や、更にホテルや住宅までみんな集めてしまいましょうというような話をしていたんです。僕ら、それはとんだもない話だと。そんな風に駅ビルばっかり立派になってしまったら、誰も町にでてこないじゃないですか。それに対して僕らが提案しているのは、中心部分は容積を減らして、駅から100メートルとか150メートルとか離れた場所の方が容積が大きいと、それを「カルデラ型」と言ってるんですけれども。外輪山型の町の構造の方がいいんではないか、という提案ですね。


渋谷コモンのプラン。駅ビルのテラス © 渋谷コモン

駅ビルのテラス © 渋谷コモン


まあ、確かに僕のプランでも、中心の容積はゼロではなく、駅ビルを作っています。というのも、町の人達と話をしてみて、今あるような商業施設が全くなくなっちゃうのはやっぱり寂しい、と言う意見が結構あったんですね。だったら、みんなが利用出来る、屋上テラスのような公共空間をつくり、かつ内部には、商業施設があるような形と言うことで、一つの複合ですよね。これだったら、事業者側も・・・JRとか東急電鉄ですけれども納得できるというか、計算がたつんじゃないか、と。

渡辺さん提案の駅ビルは、森か山のようですよね。平面積はわりと大きいようですが。

ええ。高さは50メートルと低めなんですが。面積が大きすぎるんじゃないか?という意見はありましたね。でもこの大きさの最大の理由は、バスターミナルを駅の中に入れようとしているからなんです。実は、国が国道246号線のバイパス化を検討しているんですが、僕はこれは大チャンスだと思っているんですよ。246が3階部分にオーバーパスされれば、そこを通って駅ビルにバスが出入りできますから、西口広場の大部分を占めているバス停を3階レベルに移動して、西口もハチ公広場のように、歩行者に開放できます。

渋谷駅だけじゃなくて、日本中の駅がそうなろうとしているんですけれども、駅前が交通広場になっていて、人はもっぱらデッキをあるいは地下街を歩いて街へでていくという、立体的と言うか、未来的な駅の構造が多い訳です。僕ら、それは逆だろうと。自動車優先の街づくりじゃなくて、人間優先にして、地上をこそ歩行者が利用して、自動車は、できれば地下道とか空中を通ると。246がバイバス化されれば、通過交通で渋滞が起こるような事もなくなりますし、駅の周りの歩行環境はかなり良くなると思います。


森のような外観の内部 © 渋谷コモン

内部は商業施設になっている © 渋谷コモン


渡辺さんが、このプロジェクトをやってみた感想はどうですか? 市民が個人ベースで都市計画に参加して、まじめに提案する事の難しさというか、手応えなどは?

実はいろいろやってみて、「限界あるな」というか、「思ったようには行かなかった」というのが実感ですね。ボトムアップの町づくりを目指したわけですけど、つまり、国の組織であるとか、大学であるとか、権威や権力と結びついて、ということじゃなくて、地域、あるいは渋谷を利用する人達の声とか意思表示をあてにする活動を目指したんです。そのために少しでも面白いもの、インパクトのあるもの、話題性のあるものを、というつもりでやってきました。ホームページで、興味のある人がアクセスできるようにしたり、周辺の町会、商店会のみなさんの支持が渋谷区を動かし、東京都を、そして国を動かすという、方向としては下から上に、という事をやってみたわけです。でね、今の実感としては、深く挫折した・・・(笑)。挫折はオーバーかもしれないですけど、方法論的な反省が必要だと思っています。

社会というのは階層構造になっているじゃないですか。東京に関して言えば、地域の住民がいて、地域組織があって、その上に区があって、東京都があって、国があって、というような事ですよね。僕らの理想とするのは、地域組織が「ああしたい、こうしたい」との希望を出して、渋谷区さんが、それを尊重しつつ、ほかに迷惑をかけないように調整してくれる事です。でも、それは、そうならないですね(笑)。「それが自分たちの仕事なんだ」という意識が、全くないです。


渡辺氏

インタビュアーのトム・ヴィンセント


残念ながら地域の人達も、僕がいってるボトムアップみたいなものが、他と整合性のとれた都市計画になるとは信じてくれていない。本当は「みんなも一緒に勉強して、みんなで変わろうよ」というつもりでいたんだけれども、みんなは自分はあんまり変わらないでいて、「もう外に演物はないの?」みたいなね。だけど、それでも、幸いな事に、私を仲間として認めてくれていると思うんですよね。だから、私の気持ちを率直に言えば、なんか考えてくれるかもしれないな、という期待はありますけどね。

結局は駅ビルを変えようと言うことなんですから、大きな動きですよね。社会づくりですよね、結局

そう、まちづくりってね、社会づくりなんですよね、結局。そう考えると簡単にできるはずないよね(笑)。

今日は本当にありがとうございました。

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5 コメント

  1. 「渋谷コモン」 建築家,渡辺徹氏の提案

    渋谷.シブヤ.Shibuya.
    多分生涯で最も多く利用した街(2005年9月現在:当社比).

    渋谷の駅ビルの全面リニューアル案があるという.
    何でも,…

    Posted by: ag's blog @ 9月14日2005年

  2. 渋谷再開発プランに対案があったんですね。
    初めて聞きました。
    カルデラ型のプランはユニークでぼくはこっちを支持します。
    駅ビルっておもしろくないですよね。
    街との出会いがないので。

    Posted by: 6k @ 9月15日2005年

  3. 駅ビルは色んな面で便利で良いからと、各駅が同じ手法を取り入れてきた。そして、それに同調する風潮が一般的になっている中、どうしても、どこも似てきてしまってる。そういう面でもう少し各街に特徴があってもいいのいでは? 
    このカルデア案はそういった意味で良いなと思います。
    建築デザインもユニークで良いですね。賛成します。
    それと、街にもっと緑とベンチを!
    歩道に植木&ベンチsetコーナーがあるだけで、
    気軽にちょっと足を止める事が出来るスペースがあるだけで、
    一息つけたり、街の景色を見つめる”ひととき”が生まれるのでは?
    そして、行き交う人にも”ゆとり”ができる事を願っています。

    Posted by: 自然との調和を大切に! @ 9月24日2005年

  4. Very informative site. Good job. It’s impossible to experience one’s death: http://www.useful-information.info/quotations/life-quotes.html , think in herds , How Linux thin-clients benefit schools

    Posted by: Dylan Chapman @ 10月23日2005年

  5. 渋谷コモン good post895

    Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年

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