マイクロ・コンパクト・ホーム(m-ch)

2005年9月5日 カテゴリー: インターナショナル, プロダクト, 建築, 特集

マイクロ・コンパクト・ホーム(m-ch)

マイクロ・コンパクト・ホーム © Richard Horden

マイクロ・コンパクト・ホーム(Micro-Compact Home 通称:m-ch)とは、生活空間をコンパクトにまとめた、新しい形の住まいだ。ホーデン・チェリー・リー・アーキテクツ(Horden Cherry Lee Architects)から生まれたMicro Compact Home Ltdによって、現在開発中であるm-chであるが、もともとは、ミュンヘン工科大学(Technology University of Munich)でリチャード・ホーデン教授が先導していたデザイン・プロジェクトが進化したものだ。m-chはミュンヘン、東京のコラボレーションチームから、様々な影響を受けている。日本の伝統的な茶室の建築様式や、プレハブのコンセプト、日本やヨーロッパのテクノロジー。m-chを定義しようとすると、以上のような特徴があげられる。PingMagは今回、ホーデン・チェリー・リー・アーキテクツのクロウディア・ハートリックさんに、生活空間へのユニークな取り組みについて伺った。

インタビュー:ジョン
訳:キョウコ

たくさんの建築プロジェクトが、必要以上に大きさや派手さ、高価さなどを追求しているように思えるんですが、どういったきっかけで、マイクロ・コンパクト・ホームを作る事になったのですか?

リチャード・ホーデン・アソシエートとホーデン・チェリー・リー・アーキテクツは、マイクロ・アーキテクチャー(と私達は呼んでいるんですが)に取り組んできた歴史があります。我々は、地面にそっと触れる事を目指しています。つまり、その場所に敬意を払い、その土地への干渉を最小限にとどめるという事なんですが、(スキーハウス)SkiHausなどがいい例ですね。このデザイン・アプローチは、場所を問わないユニバーサルな住居環境として、m-chでも生かされました。 コンパクトな大きさは、どんな場所にも適していますし、そのデザインと設備は現代のライフスタイルにはぴったりです。もちろん、地面にもそっと接していて、環境への負荷も少なくてすみます。

私達は、建築と、プロダクトデザインは、共生関係にあると思います。m-chは、毎日の生活の中で求められているものを完璧に満たしたプロダクトであるという意味で、建築とプロダクトデザインのハイブリッドだと言えると思います。m-chに住むという事は、個人の趣向を宣言するようなもので、最新の車にー例えばBMWに乗るのと一緒のようなものですね。このような事を、我々は「ショート・ステイ・スマート・リビング(短期滞在、賢明な暮らし)」と呼んでいます。

ヨーロッパというと、日本などと違い、「土地不足」とは無関係のように思うんですが。ヨーロッパにおいて、どのような状況で、m-chがもっとも有効だと思われますか?また、どんな人が、m-chを必要としていますか?

現在、学生の居住地でm-chを建設中ですが、立方体の建物が、違ったレベルで配置され、パブリックとプライベートな空間を作り出しています。

個人の使い道としては、m-chは週末に田舎や山中での別荘になるでしょうし、可動性のバードウォッチ・ハウスにもなります。または、両親の家の庭で、若者が初めて独り住まいをはじめるアパートにもなるでしょう。ヨーロッパの街でも、土地の価格は上昇しているところなのて、m-chは仮住まいや、単身赴任の人の住処など、また、小区画の土地を有効に使ういい解決法になると思いますよ。

ビジネスとしては、例えば、出張時の短期滞在用のホテルとして、または会社が保有するマンションとして使用するなどの可能性が考えられます。

東京工業大学が、このプロジェクトに関わったと聞いたんですが、彼等の役割はどんなものだったんですか?

このプロジェクトはもともと、リチャード・ホーデン教授が建築とプロダクトデザイン学科で教鞭をとるミュンヘン工科大学で、学生へのデザイン課題として始まったんです。


m-chを垂直にアレンジしたもの

東京工業大学の学生達とアイデアをしぼる


初期の頃は、東京工業大学の八木幸二研究室と共同でワークショップを開催しました。内容は、空間の構成に関する調査や、2.6m×2.6m×2.6mの極小空間での機能の調和などがテーマでした。ミュンヘンで同じ課題(当時は「トーキョー26」と呼ばれていた)に取り組んでいた生徒達とインターネットを使ってのビデオ会議が開かれるなど、とても国際的なプロジェクトで、日本で集められたたくさんのアイデアは、最終的には完成品に実際に投影されました。

この初期のコラボレーションは、「新建築住宅特集」の2002年3月号でも取り上げられました。

**ドイツ・チームと日本チームで、なにかデザインへの取り組み方の違いが見られましたか?また、完成品のデザインで、どの部分がヨーロッパからの影響で、どの部分が日本からの影響だと感じますか? **

熱心な指導者や助手、そして生徒達の姿勢は、どちらの大学も素晴らしいものでした。「やればできる」という心構えが、このプロジェクトを今日のような形にまで育て上げたんだと思います。日本の大学院での研究というのは、理論が多いらしいので、実際のデザインの課題という事で、日本の修士の学生達は、俄然やる気がでたようでした。東京からは14人の学生が参加していたのですが、みなさんとても洞察力があり、サイズの問題などもすぐに理解していました。真剣に、でもユーモアと新しい視点をもってプロジェクト臨んでいましたよ。東京工業大学周辺の狭小地の飲食店に慣れ親しんでいた事もあって、このプロジェクトを素早く理解できたんでしょうね。

同時進行で行われたデザインでしたが、その進捗状況は東京とミュンヘンをつないでのビデオ会議で何度もプレゼンされました。もちろん時差がありましたので、ドイツの学生には早朝でも、日本の学生にとっては深夜の会議といった風でした。デザインのプレゼン、モデルの制作、とても素晴らしい出来で、どちらの大学から出てきた物にも、類似点がありましたよ。きっと、建築デザインというのが、とてもユニバーサルになり、現代の建築のトレンドが国際的でなものだからでしょう。

m-chのデザインは、ミニマリズムで、現代の日本の美的感覚と通じる雰囲気を醸し出しています。これを国際的なデザインだと思いますか?

必要最低限まで削ぎ落とすという美的感覚は、最近とても受け入れられているトレンドだと思います。きっと、テクノロジー重視で、スピードが速く、いろんなものがあふれ返ったライフスタイルへの反発なんでしょうね。m-chでは、この美的感覚を、もう一歩踏み込んだところまで進化させようとしました。そして、外見だけでなく、生活上不要なものを削除した本当の意味でのミニマリズムを提供し、それを実現させるために、そこで暮らしていく人に、刺激的で、必要に応じた環境を作り出そうとしたのです。

「まっさらな」空間に、いろいろな機能が重なりあっていている事。 日本の伝統的な茶室で確立され、日本の現代建築にもよく引用されているスタイルですが、m-chの基本的なインスピレーションはここから得ました。

東京でワークショップを行っている間、京都や大阪などの都市から田舎まで、日本を広く見て回る機会を得ました。そして東京の路地に軒を連ねる居酒屋や、大阪のソニー・ビル、また、プレハブの工場から、古い旅館まで、などの実に様々な空間からインスピレーションを得ました。

コンパクトな居住空間というのは、日本で生活する上では、まぎれもなく現実問題です。1Kのアパートやカプセルホテルなどはご存知ですか?また、デザインの過程でこれらのコンセプトから影響を受けましたか?


日本ではよくみられる1K(1ルーム、1キッチン)の部屋

日本のカプセルホテル。棺桶のように見えなくもない


東京などの人口密集地域での現在の動きは知っています。私も東京に2年間住んでいましたから。私の部屋も、ワンルームのアパートで、ビル自体が1.60mの横幅しかなく、10平方メートルの空間にキッチンとバスルームがついているという大変狭いものでした。ホーデン教授と彼の助手が東京に滞在した際、これらの狭い空間を体験し、その質の良さに驚いていました。

中銀カプセルタワービルを訪れたのですが、一階に展示されているユニット・カプセルだけでなく、実際に居住者がいる上階のユニットを見学させていただきました。それに棺桶のようなカプセルホテルの事もよく知っています。ただ、私達が、目指しているのは、(カプセルホテルとは)もっと違うクオリティーですが!

このように小さい居住空間を設計するためには、人間がどのように生活しているかについて、深く考えなくてはならなかったと思います。優先させたもの、また省略したものはなんですか?どのように、デザインの決定をしていったのか聞かせてください。

最近で言えば、学生のための住居をデザインしていますが、彼らに一番必要なものは、  生活、そして勉強ができる空間でしょう。夜寝るときに、机の上に作業中の作品をおいたままにできる、そんな空間だと思います。見た目にも、そして実際にも行動エリアと寝室エリアを切り離すような配置を見つけなければなりませんでした。 それは、心理学的見地から見ても、とても大事なことなんです。


m-chのインテリア。簡単にアレンジできる

折りたたみ式のダブルベットや、その下の壁にスライドして収納できるダイニング兼作業テーブルなど、m-chは自分でアレンジできるので、使い方によって、まったく違う空間を演出できるわけです。また、キッチンが、別のレベルにありますが、どこからでも簡単にアクセスでき、娯楽施設も独立して存在します。いろんな空間を体験出来る事で、コンパクトな空間でも、「広さ」を感じる事が出来るのです。 このコンセプトは、短期間だけでなく、長期間の宿泊設備としても重要なものだと思います。

m-chで実現されているさまざまな機能にとても感銘をうけたのですが、作業スペースと就寝スペースを分離した方がいいというのは、どういう事なのでしょうか?寝室から作業部屋が見えると、どうしていけないのでしょう?

コンパクトな環境というのは、限られた空間の中に、生活必需品をいかに統合するという多機能性にかかっています。しかし、「〜専用のスペース」というのは、居住者にとってとても魅力的なものなのです。作業がしやすいテーブル。キッチンへのアクセスもよくゲストが来てもすぐおもてなし出来るダイニング。そして日々の仕事を忘れて休息できる寝室などがそうです。

大事な仕事や日々の雑務などをこなしていく上で、その空間が「なんのため」の場所なのかはっきりしている事は、課題を成功させるための鍵なんです。だからこそ、m-chでは、多機能にこだわりつつも、「この空間とこの空間は一緒にしてもいい」、また「この空間とこの空間は心理的面から見ても切り離さなければ」という細かい計算がなされました。

作業スペースと就寝スペースを分けることで、リラックスする空間と働く空間が自然とわかれています。また、玄関エリアも出入り口としての機能、トイレ/バスルームとしての機能の、2つの機能を与えていますが、見た目には互いを思い出させるものはなにもありません。

先ほどお話にでましたが、ミュンヘンのFreimann地区の学生寮にm-chが採用されて、今建築中ですよね?10月には完成するそうですが、従来型の寮ではなく、m-chを学生寮にする事の利点は何だと思いますか?

「O2 Germany」というドイツの電気通信会社がスポンサーになったO2学生村(The O2 Student Village)ですが、m-chだと配置のアレンジに融通が利きますし、また、学生の数が増えた時も、簡単に増築する事が出来ます。現在のところ、短期滞在者の為にデザインされています。例えば、年によって人数がまちまちな海外からの交換留学生がそうです。また、留学生はなかなか寮になじめないと思いますが、m-chは、パブリックスペースとプライベートスペースがうまく配置されているので、学生達にコミュニケーションを促します。ホーデン教授も、この寮のユニットに住む予定なんですよ。

m-chは現在のところ、短期滞在型のユニットです。将来、我々はこのようなコンパクトなスペースに長期的に暮らす必要が出てくると思いますか?自分の小さなアパートを見ていると、日本はもうすぐそうなるような気がするんですが・・・。長期型のコンパクト住まいを作るためには、どういったデザイン事項が検討されるべきだと思いますか?

都市圏に人口が集中し、地価も上がり続けている今、小さくて可動性で、しかも環境への負荷が少ない住宅の必要性は明白です。すべての人が、このような住宅を必要としているわけではないと思いますが、人口密集地に住む人達には必要ですね。長期型の住まいという事で言えば、m-chの睡眠、仕事、食事、衛生面の設備などは十分だと思います。ただ、収納のスペースがもっと必要になるかもしれません。収納専用の立体のキューブをつくって、いくつかのユニットで共有するような形が解決策としては考えられますね。現在我々は、いろんなアレンジを考えていて、例えばm-chを縦に積み重ねていくタワー・バージョンなどがあります。これは、中央にある動線にそって、30ユニットまで積み重ねていくといったもので、地上1階の骨組みの下には駐車場があり、地域で共有するキューブではご近所同士のコニュニケーションを促します。

楽しみですね。クロウディアさん今日はありがとうございました!

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