金沢21世紀美術館

2005年8月29日 カテゴリー: イベント/展示会, 国内, 特集

金沢21世紀美術館

マイケル・リン「市民ギャラリー」壁画の前で

2004年10月9日に開館した、金沢21世紀美術館。金沢市の中心部に位置し、ガラス張りの外観とまるい形状、思わず入ってみたくなるそんな建物だ。 市民のためにコミュニティ・プラザ的役割も果たす「ひらかれた」美術館で、これからの美術館のあるべき姿と、「マシュー・バーニー:拘束のドローイング展」について、エデュケーターの黒沢伸氏にお話を伺った。

インタビュー:ウレシカ&キョウコ
訳:キョウコ

金沢21世紀美術館は、とても「ひらかれた」美術館ですよね。建物もそうですが、コンセプトでも、「市民とつくる、参加交流型の美術館」という事が掲げられています。もともと、金沢21世紀美術館がつくられた経緯をお聞かせ願えますか?

基本的にこの美術館が建ってきた経緯の一つには、「ドーナツ化現象」があげられます。金沢市では、金沢大学と石川県庁が移転した事から、町の中心地の昼間、人口がぐんと減ってしまったんです。その事に対する大きな危機感から、にぎわいを作り出すためにどうしたらいいか、という事が一つの目的としてありました。もう一つは、ここは古い町なので、昔からの伝統工芸や、地域固有の文化がある一方で、新しい事が非常に起こりにくい、という文化的状況や環境がありました。その中になにかしら新しいものを生み出す環境をつくりだしたい、それが二つ目の目的でした。


金沢21世紀美術館、光庭の様子

アートライブラリー


町の人達がただ、チケットを買って展覧会を見ました。はい、帰りましたというだけでは、これからの美術館はにぎわっていかない。つまり、自分自身がアクションし、参加し、活躍できる場所というような、より強い結びつきが出来上がってこないとだめだという事です。そのためにはいろいろ作戦を考えるんですけど、その一つは、特に子供たちという事を対象にしている事ですね。未来のオーディエンスを育てるという事もあるんだけれども、子供の方が、コンテンポラリーアートに近づきやすいというのがある。それに、子供が近づけば、その周辺の大人も自ずから来るようになるでしょ?

具体的にはどのような方法で、子供にアピールしているのですか?

例えば、この「夏のまるびぃ」というチラシ。現在展覧会が行われている「マシュー・バーニー」と「アナザーストーリー」の子供向けチラシなんですが、こういったものが、市内のすべての学校の生徒に配られている、と。(注:「まるびぃ」というのは、金沢21世紀美術館の愛称。美術館の建物の形状が丸い事に由来する)


子供向けチラシ「夏のまるびぃ」

子供に配られた「まるびぃとの遭遇」より、美術館で守って欲しい約束事


えっ、すべての小学校の生徒にですか?

小中学生です。実は、開館から半年間の間に、小中学生を全員美術館に呼んだんですよ。4ヶ月間で52日くらいかな。約100校の小中学校の子供たち4万人がここに来ました。だから、そういう試みをやってみると、今日も見てもらえばわかると思うけど、親子連れが案外いるでしょ?

はい。正直びっくりしていたんですが。

マシュー・バーニーで親子連れって(笑)という事がおこるようになってきた。

子供達のまるびぃファンが増えた理由は分かったんですが、では、大人達はどうですか?、どのような活躍の場が与えられていますか?

例えば、アーティスト・イン・レジデンスという企画がありまして、6ヶ月間彫刻家のヤノベケンジさんがプロジェクト工房に滞在されたんですけど、子供のためのなにかを作ろうよ!という呼びかけがなされるんですね。すると大人達があつまってきて、一生懸命つくる。別の機会には、そこに来ている大人が、バレンタインデーに、子供たちのためのイベントをやろうと言い出したんです。この美術館は透き通って冬寒いから、マフラーを編んでみようという事になった。編み方の指導は大人たちが、ここや、近くの学校で行って、最後には、600メートルのマフラーが完成しました。


ジェームス・タレル「ブルー・プラネット・スカイ」の部屋

「ブルー・プラネット・スカイ」時間によって表情を変える

アニッシュ・カプーア「世界の起源」

平面に見えるが、実は穴が


では、美術館のスタッフじゃなくても、企画ができるという事ですか?

今日は、キッズスタジオで、インターネットを通じて横浜とやり取りをしながら、連画(「学校連画:絵のリレー」)をやっているんですが、このワークショップを発案したのは、地域の学校の先生なんです。我々は「せっかくやるんだったら、こういうやり方がありますよ」という事で、それをサポートしていく。だから、必ずしもここのスタッフが発案するというわけじゃないですね。

なるほど。西洋のモダニズムと違った価値観を提示していく、という事が開館のコンセプトの一つにあったんですが、具体的に、これはどういった意味なんでしょうか?

「西洋のモダニズムと違った」というと語弊がありますね。どちらかと言うと、モダニズムを超えた先というものを、どうやって作って行こうか?という事なんです。シンプルに言うと、明治以降どうしても、ヨーロッパから学んだものってたくさんあるんですよね。だけど、今、よくよく見てみたら、世界中どこをみても面白いじゃないか、と。 アフリカ、とても面白い。南米、とても面白い。どこも面白い文化があるんだから、そういった事も今後見て行きましょう、という事です。だから、ヨーロッパ、アメリカから見た美ということを基準に考えなくてもいいんだ。金沢から世界をみると、こういう風に見えているんですけど、みなさん、どうですか?と。それでいいじゃないか、という宣言のようなものなんですね。


フローリアン・クラール「アリナのためのクラング・フェルト・ナンバー3」別のラッパと地下でつながっていてコミュニケーションできる

レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」

「スイミング・プール」上から

「スイミング・プール」下から


興味深いですね。では、恒久展示をされている作品はどんな基準で選んだものなんですか?

一つ目は、「アナザーワールド」二つ目は「コミュニケーション」という事があります。アナザーワールドというのは、例えば、タレルの空もそうですが、そもそも四角っていうのは、絵のメタファーですよね。窓の向こう側は別世界、アートの世界というわけです。コミュニケーションというのは、例えば「スイミング・プール」でいえば、下にいる人と、上にいる人が知り合いじゃなくても、例えば上の人が手をふれば、かならず下の人も手をふりますよね。これは「コミュニケーション」なんです。コミュニケーションを促す作品ですね。


「拘束のドローイング」制作に使われた道具

「拘束のドローイング9」 左側がプラスチック、右側はコンクリート


ここで、ちょっとマシュー・バーニーの「拘束のドローイング9」についてお聞きします。バーニーが長く取り組んできた「拘束のドローイング」(体に制限を与えて行ったドローイング)の1から8までの作品と、今回新たに制作された9から11までの作品が展示されていますが、今回上映されている「拘束のドローイング9」は、特別に金沢の為に制作されたものですよね?

そうですね。開館前から、この美術館が出来たら、彼の個展を開催したいという相談をしていたんです。事前に金沢に招待しましたし、この建物の形も建築中から見ている。それで、彼はこのスペースがとても気に入ってくれて、じゃあ展覧会をやりましょうと言う事になった。彼にしてみれば、金沢で展覧会をやるイコール日本で展覧会をやるという事ですよね。どうせ日本で作るならば、自分自身が日本で作る事に対して、より意味を見いだしたいじゃないですか?それで、行き着いた先が捕鯨だったんですね。


「マシュー・バーニー:拘束のドローイング展」より

アクリルケースの中には、「拘束のドローイング8」が収められている

「拘束のドローイング9:セティシャ(クジラ目動物の総称」の展示室

「拘束のドローイング9:セティシャ」の一部


この映像作品は、とても神秘的で、しかも強烈なエネルギーに満ちていましたよね。特にクライマックスでの、ビョークとバーニーの演技はとても劇的でショッキングなものでした。 理解出来ない部分もあり、謎も多く残ったのですが、変容や時間の流れを感じさせる映像に感動しました。


拘束のドローイング9」の写真作品

「拘束のドローイング9」の写真作品


バーニーは、自分で使っていたマテリアルの問題からもスタートするんですけど、油とかプラスチックを彼はよくつかっていた。でも、油やプラッスチックというのは石油で出来ていますよね。石油を発掘する以前に、人類が何を油として大量に使ったかというと、鯨油なんです。そこで、クジラにむすびついた。石油というのは、そもそもは動物の体。動物の体が変化したものが自分が使っている材料であるという事。日本の文化における捕鯨。自分の体がそのうち変化して行って油になる。そういった事がすべて結びついた。で、彼は最初に企画を考えた長谷川祐子の所に電話をして、「捕鯨船で撮影したいんだけど」と。

船の手配が大変だったと言う風に伺ってますが。

だって、捕鯨船なんですから。金沢にそんなものはない(笑)どうしたらいいか分からなくて最終的に行きついた先が水産庁でした。水産庁にはクジラと捕鯨についてものすごく詳しい方がいらして、その方が努力をしてくれて、捕鯨船の「日新丸」を借りる事ができました。

とにかく、映画が大掛かりだったのには驚きました。すばらしい組織力、映像技術、異文化研究などなど、アートと切り離してみても、すばらしいと思いました。


「拘束のドローイング11」

この持ち手を頼りに壁に登って、この展示室内で制作された

「拘束のドローイング10」トランポリンを使って制作された

拘束のドローイング10」天井のドローイング


今回のマシュー・バーニー展にしてもそうですが、海外だと、例えばニューヨークとか、ロンドンなどの大都市から離れたところで、こんなにクオリティーの高い美術館が存在する、機能するというのは、珍しいと思うんですが。

でも、スペインのビルバオなども地方都市ですよね。確かに、金沢の人口の規模でこれを作り出すのは大変な事ではあるんだけれども、50万の都市なので、美術館を持ってもおかしくはないと思います。

このままのやり方で東京に持って行ったとして、同じように上手く機能すると思いますか?

うん。多分、うまく行くと思いますよ。それは、われわれも、これまでの美術館とか、東京の美術館を見てきた上で、新しい美術館はどうあるべきかを考えながら作るわけですよね。例えば、敷居の高さをどうやったら、ハードの段階、(建築)で解消できるのか、とか。例えば同じ丸い形でも、ガラス張りじゃなくて、もしこれが、レンガや、コンクリートの壁だったら、こんな風に人は入らない。ガラスだと、自分と同じような人間が、中にすでにいるというような状態が見えるから、遠慮なく入って来れますよね。


曽根裕「アミューズメント・ロマーナ」

「アミューズメント・ロマーナ」を楽しむ人


市民参画というような事でいえば、今、いろんな所の美術館が始めようとしていますよね。これはもう時代の要請ですから。予算的にも低予算の中で運営していかなくてはならないので、いろんな人の力を借りなくてはいけないわくなっているわけですよ。じゃあ、そのためにどうするか、例えば、託児所を用意する。ここでは、0歳児の赤ちゃんも預かっているんですが、そうすると、子供を預けてここで活動するってことができるようになる。新しく美術館を作る以上、これからの美術館で必要とされはじめている機能を持たなくてはいけないといって作っているわけです。だから、グローバルに通用すると思うんですけどね。

集客数はいかがですか?開館からまだ一年にならないくらいですが。

今、145万人ですね。開館からコンスタントに、来てもらっています。


インタビューに答える黒沢伸氏

子供が多いのもそうですが、来場者の年齢層が幅広いですよね。マシュー・バーニー展で、初老のご夫婦が「全然わかんないね〜」なんていいながら、楽しそうに見ている。すごく印象的でした。

ぼくは、わからなくても、たのしい謎として記憶に残ればいいなと思うんですよ。例えば、子供にマシュー・バーニーの事を説明しようとしたら、すごい事になってしまう。でも、仮に”意味不明”であったとしても、「分からないけど、なんか、楽しかったね」と思ってもらえるといいと思います。「分からなくてつまんなかった」というのではだめですけど。

今日は本当にありがとうございました。

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3 コメント

  1. 雨の金沢でマシュー・バーニー展

    http://stylog.jp/_images/blog/ykfksm/9071.jpg

    はじめてhttp://www.kanazawa21.jp[金沢21…

    Posted by: まったり記録 @ 8月31日2005年

  2. super site budur

    Posted by: goruntulu sohbet @ 7月22日2011年

  3. 金沢21世紀美術館 good post890

    Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年

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