
クルーズ(+cruz)に初めて会ったのは、私が日本へ来たばかりの頃に暮らしていた“外人ハウス”のキッチンだった。彼の“正体”を知った時、「Wieden+Kennedyの新しいアートディレクターでさえ、こんな質素なスタートを切るんだ」と、励まされた気がした。これぞ東京の厳しい現実!…あれから数年が経った現在、広々として日当たりの良い広尾のマンションで暮らすクルーズは、ここにたどり着くまでどんな事を成し遂げてきたのか。…そう、彼の原点であるアジアへ「戻ろう」と決めてから。
インタビュー:ウレシカ
訳:ジュンコ

古い外人ハウスのダイニング

広尾のマンションにて
私が作品を見にWieden+Kennedyに初めて訪れた時、Nike Presto 03に取り掛かってる真っ最中で、「technoactive instant go」っていう、色を動かすテーマのキャンペーンのためにカラフルなグラフィックを使って実験してたよね。

Presto 03 キャンペーン

Presto 03 キャンペーン
Presto 04では、Urban Canvasシリーズに見られるように、実際の動きとアニメーション、フィルム、ペインティングを融合するために、どちらかというと演出する側に回ったみたい?このプロジェクトに対するモチベーションや、実際どういう風に進んだのか、教えてくれる?
日本のPresto03の後、僕らは次のアジア全体をターゲットにしたPresto04キャンペーンの要点説明を受けたんだ。それからジョン・C・ジェイ、バートン・コーリーと僕の3人はミーティングルームに詰めてブレイン・ストーミングをして、最終的に到達したコンセプトが、「色んな種類のアーティストをつないで作り上げる、若者のアート、ムーブメント、音楽、視覚的な物を通して、生の都会のアートとエネルギーがアジア全体に流れる」っていうこと。凄く大きなビジョンだったけど、それに対して僕たちの予算は本当に少なかったよ。アメリカのNikeにかける予算に比べると本当に低いんだ。でも、だからこそ僕らは本当の意味でクリエイティブにならなきゃいけなかったし、他の手段をどんどん考えなければならなかったんだよね。

Urban Canvasの一場面

Urban Canvasの一場面
それで結果的に何でも屋にならざるを得なかったわけよね?アート・ディレクターであり、フィルムディレクターの一人であり、プリント・デザイナー、プリント・ディレクター、ビデオグラファー、それからフォトグラファー?
そう。実際本物のディレクターを雇ったりするのは完璧無理だった。でも、誰かがディレクターをやらなきゃいけなかった。で、ジョン・C・ジェイが僕に「やってみる?」って聞いて、僕が受けたってわけ。まるで崖から飛び降りて水泳を体得するみたいなもんだったよ。
Urban Canvasは、W+Kのメンバー、アーティスト、L.A.の友達とか関わった全ての人の巨大なコラボレーションなんだ。W+KのHiromiは、いつも「写真を使っていつか何かやりたい」って言ってたから、僕は今回カメラを渡して「撮って!」って言ったんだ。こんな風に全てが実験的で、超リアルだったよ。

Urban Canvas-ガラスにペイントするSasu

Urban Canvas-ロスでのライブペイントの模様
どこからどうやって人を集めたの?
LAには、一緒に学校に行った仲間が沢山いたし、W+Kにも勿論大きなネットワークがあるからね。ストリートアーティストを探してたとき、ジョン・C・ジェイはBarnstormersのSkwermを知ってたし、日本人女性グラフィティ・アーティストのSasuは会社の地元の友達なんだ。それから、FREkに出会えたのはホント運が良かった。彼は19歳の香港から来た子で、波と電光を全部描いたんだ。音楽はDJ Uppercutがやって、彼はその後W+K東京LABと契約した最初の人物になった。東京と上海でPan-Asian urban canvasのための撮影した後、SkwermとSasuとFREkはそれぞれ2日間プランを練って、それから、ライブ・ペイントを3日間やったんだ。あれこそ本当のドリーム・プロジェクトだったよ。
このプロジェクトは本当に低予算だったのよね?もしもっとお金があったら、プロジェクトはどう変わってたと思う?
うーん、いい質問だね。もしもっとお金があったら、僕はディレクターをやってなかっただろうし、そしたら、僕の作品じゃなくなってたって事だからね(笑)。厳しい予算でやるっていうのは、本当の意味で挑戦だったよ。でも、新しくて、オーソドックスじゃないやり方を使わざるを得なかったからこそ、オリジナルな物が出来上がったんだと思う。だから、Urban Canvasは予想外で荒削りのリアルなものに仕上がって、それこそ僕らが触れたかった新世代の精神ってものだったと思う。
Prestoがああいう風に旨くいった理由の一つは、関わった人数が少なかったっていう事もあるかもしれない。間にフィルターが少なかったし、クライアントとの厳しい相談も無かった…それで、出来上がったものは僕たちが思い描いてたものに凄く近いものになったんだと思うな。

インタビューに答えるクルーズ
Nikeは実験的な試みに対してどれくらい寛大だった?彼らは凄くあなた達を信頼してたみたいに感じるけど?
そうなんだよ!Nikeは新しい事に対していつもオープンなんだ。他の多くのクライアントと違って、彼らは喜んでリスクを負ってくれるし、それこそが彼らを世界で一番素晴らしいクライアント兼スポンサーにしている所以だよ。クライアントがどれだけやらせてくれるかって事が、僕らの力を決定するんだよね。そういう意味でも、僕はNikeと一緒に仕事が出来て本当に幸せだよ。
Prestoの成功の他に、クルーズは、W+K東京LAB(新しい表現方法を試みる音楽レーベル)を2003年にスタートした時のメイン人物の一人でしょ?どんな風にこのレーベルは展開されたの?
W+K東京LABは、とにかく良い音楽と、新鮮なビジュアルがあって、“hybrid(混成)”をコンセプトにクリエイティブな表現方法を作り出す新しい試みなんだ。基本的にはジョンのアイディアなんだけど、彼は、日本のアーティストを海外に向けて売り出すために何かをやりたがってたんだよ。それっていうのは、お金目的なレーベルじゃなくて、なんていうか、愛のレーベルでさ。W+K東京LABはね、結局は、ネットワーキングとか友達同士をつなげるっていうものがベースで、世界中から面白い人を見つけては、彼らが普段自分たちでは出来ないことを、東京を基点として出来るようにしてあげたいっていうことなんだよ。W+K東京LABみたいな事は、ずっと計画の中にはあったんだけど、基本的にボランティア的に皆が動けば出来るっていうものだったから、とにかくNikeのプロジェクトが終わらなきゃ出来ないでしょ?誰が夜中の12時に仕事が終わってからボランティアで働きたいと思う?
あなただったら思うでしょう!(笑)

W+KTLabの作品, Afra- Digital Breath

W+KTLabの作品, Afra- Digital Breath
(笑)実は今朝さ、うちのスタッフの一人が僕をある人に紹介する時にね、「一番クレイジーなアート・ディレクターです」って紹介したんだよ。どうやら、僕は一番クレイジーな男らしいよ(笑)。ずっとその肩書きを持ち続けるのは嫌だけどね。
最初のリリースとなったDJ Uppercutは、今でも私のお気に入りの1つなんだけど、このキャラクター達のシンプルな動きは、とてもアジアっぽいよね。これを見た時、私は即座に“hybrid(混成)” の意味や、クルーズが良く使う言葉の“historic futurism(歴史的な未来運動)”っていうのも理解出来た気がしたわ。

W+KTLabの作品, DJ Uppercut

W+KTLabの作品, DJ Uppercut

W+KTLabの作品, DJ Uppercut

W+KTLabの作品, DJ Uppercut
レーベルをスタートする時に苦労した事って何だった?それから、W+K東京LABの根本的なアイディアを説明してもらえる?
W+K東京LABを始めるのは本当に大変だったよ。W+Kの者だって言ってNikeプロジェクトの作品を見せると、かなり効果的ではあったけど、それでもやっぱり、後ろ盾も何もなく、ただ「僕らには才能あるミュージシャンとアーティストがいて、何か視覚的にカッコいい事をしたいんだ」なんて言っても、まるで手がないって感じだったよ。
W+K東京LABは、僕らの実験的な排出口なんだ。だから、巷には僕らと一緒に何かをやりたいっていう人が沢山いるんだ、たとえ報酬が安くてもさ。結局、最終的に良いものが出来上がって報われるんだけどね。でも、ほとんどの場合、最初に「これは君たちにとって、良いものを作るチャンスなんだよ」って説明しなきゃいけないんだよ。彼らには、それをやる事の本当の価値が見えない時が結構あって、それってちょっと残念な事だよね。だから、そんな時に僕は、やり手の車のセールスマンにでもなった気分で説明するんだけど、そういうことがずっと続くのは耐えられない。新しい作品ではかなりそういう事が無くなって良かったけどね!
FatBrosやその他の作品が成功した後、皆が次の作品を楽しみに待ってくれててさ。それって凄く光栄な立場にいるって事なんだけど、正直、かなりのプレッシャーを感じてはいるよ。だって、新しく出す物は必ず前のクオリティを越えなければならないんだから…これは本当にツライ!

W+KTLabの作品, Hifana- FatBros

W+KTLabの作品, Hifana- FatBros
ビョークの監督を頼まれたりしたけど、広告会社の社員っていう立場上、請けられなかったって聞いたけど本当?そういう事に関して、何か変化はあった?
うん。その後交渉を重ねて、今では外部の監督の仕事もW+K東京LABを通せば請けることが出来るようになったよ。一部の会社にとっては、理解が難しいみたいだけどね。W+K東京LABでもっと時間を使えるように、僕はかなり優先順位を移したよ。勿論、Nikeは今でも僕の一番メインのクライアントだけどね。
最近Hifanaの2枚目のアルバムをリリースしたよね(Hifana , CHANNEL Hを収めた45分のDVD)。
正直、あれはクレイジーだったよ。実際、「和モノ」ビデオだけ作ってプロジェクトから離れる事も出来たのに、結局DVD全てを作っちゃったんだ(笑)。

W+KTLabの作品, Hifana- Wamono

W+KTLabの作品, Hifana- Wamono

W+KTLabの作品, Hifana- Wamono

W+KTLabの作品, Hifana- Wamono
テーマが「和モノ」だからって事だけじゃなくて、凄く日本を感じさせる作品だねって人から良く言われるよ。この作品は、実は日本の偉大な映画監督の小津安二郎の作品からインスピレーションを受けて出来たものなんだ。撮影する時は、カメラを低位置に固定して全く動かさず、それから通常動画に使われるようなエキサイティングなカットは避けようっていう結論を出したんだよ。だから、全てが、キャラクター自身から生まれる動きが基盤になっているんだ。キャラクターがうまく動かなかったら、すべてが平面的になってしまうっていう事をアニメーターに伝えることは凄く苦労したなぁ。
このDVDは、HifanaのVJクルーとW+K東京LABとのコラボレーションね。他にも私のお気に入りのビデオにAkeroがあるんだけど、どこでこういう女の子達を見つけてくるの?

W+KTLabの作品, Hifana- Akero

W+KTLabの作品, Hifana- Akero
ちなみにこれもまた凄い低予算だったんだけど、とにかくAkeroは、浜辺、太陽、遊び、女の子がテーマで、僕が教えてるテンプル大学(Tyler school for the Arts)の生徒とのコラボレーションなんだ。登場する女の子達は生徒の友達なんだけど、彼女たちは、僕の持ってた「日本の女の子はシャイ」っていうイメージを完全に払拭したよ!
クルーズの作品では、凄く面白いフィルムミックスがされてるよね。「和モノ」に見られるように、実際の動きとアニメーションの融合っていうか。融合、サンプリング、ミキシング…、つまるところ、これが全て“Hybrid(混成)”になって、それこそが“クルーズ流”なのよね。
正直なところ、和モノのビデオが出来てから、もうアニメーションは十分かなって思ってるんだ。今はもっと映画の方に興味があるよ。っていうのは、これまで僕は、(アニメーションとかじゃなくて)本物の人間がそれぞれ違う動きをしてるっていう所を監督した事がないから、キャラクター研究っていうか、そういう意味で次は映画っぽいものにチャレンジしてみたいと思ってるよ。Nike Bukatsu(部活))は、僕が今やりたいと思ってる事にちょっと近くて楽しかったよ。

Nike部活キャンペーン

Nike部活キャンペーン
これまで、ストーリーを空想したり、夢で見た映画を撮ってみたいと思った事はあった?
僕は夢を見ないんだよ!だから夢を見る人が凄く羨ましい。寝てる時、僕は何も見えないからさ…。これまでの人生で覚えてる夢は3つだけで、その内の1つは、僕の母親がキングコングに持ち上げられてた(笑)。
どうやって、色んな事をイメージしたり、目に見えるものにしたりしていくの?
僕の中には色んなものが存在してるんだ。ビジョンが沢山あるっていうんじゃなくて、もっと細かい思考っていうか。クリエイターの多くは、ビジョンがあって、それを実際に描いていくけど、僕は小さいアイディアを書き下ろす。もし新しいプロジェクトが目の前に置かれたら、僕はそれを視覚的に考える。それから刺激的な要素を僕の人生から足していく。その為にも、僕は人生のどんな時でも何か新しい事にチャレンジしたいと思ってるんだ。旅行は勿論、新しい道を試して時には近所で道に迷ってみたりさ。実際、わざと道に迷ったりすることも多いんだよ。
アジアをほとんど旅して、最後に東京に落ちついたよね。アジアに関するビジョンを教えてくれる?それから、東京こそが、クルーズのアイディアを形にするのにパーフェクトな場所だって判断した理由を教えて。
東京は世界の縮図だと思う。消費や購買のパワーは巨大で、新しいファッションやデザインを取り入れて消化するのが世界中のどこよりも早い。これこそ正に、実験のための場所でしょう!

アジアを旅行して色んなものを集めているクルーズ

フィリピンのアルファベットを復活させたいクルーズ
僕はとにかくアジアを盛り上げたいんだ。アジア文化が世界に誇れるものだって改めて認識してもらいたいし、彼らは、自分たちが思ってる以上にもっと素晴らしいものを沢山持ってるって事を知って欲しい。僕が、僕の祖先の国フィリピンについてリサーチした時、スペイン占領前にフィリピンには自分たちのオリジナルのアルファベットがあったって事を発見したんだけど、僕の家族は誰もそんな事知らなかったんだ。
ポップメディアをやる事が、必ずしもそういう目的に対して一番分かり易い方法ではないと思うし、アーティストはもっと知的にやろうとしてると思う。でも僕はそれを広告でやりたいんだ。

Nikeバスケットボール

Nikeバスケットボール
僕はこれまで、アジア人の子供がNikeのコマーシャルに出てるのは見た事が無かったし、ストリート・アートがメインとなって、上海と東京の融合した背景を作り上げるなんてコマーシャルも見た事が無かった。これをアメリカの人が見たら、そしてもし彼らがこれをカンヌで褒め称えてくれたら、僕は「面白いことが、今アジアで起こってるんだ!」って世界に声を発信するのに少しは貢献出来たって感じられるんだ。
今日はどうもありがとう、クルーズ!
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Posted by: Ian Drake @ 10月23日2005年
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Posted by: Alexgkvwe @ 4月6日2007年
クルーズ @ W+K東京LAB good post880
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年