
TOCA ME(トカメ) はスペイン語で、「タッチ・ミー(触れて、感じて)」という意味だ。ドイツ南部ミュンヘンで今年で第2回目を迎えた、このデザイン会議のタイトルとしては、これほどぴったりくるものはないであろう。TOCA MEのコンセプトは「ワクワクするような」または「ムムム、やるな」というデザインを紹介する事だと、主催者の1人トーステン・イーベル(Thorsten Iberl)が説明してくれた。
作者:レト
訳:キョウコ
TOCA MEはなにも新しいデザインのパラダイムを定着させようとしている訳ではない。ただ、様々なバックグラウンドをもつデザイナー達に向けて、アイデアや、手法、スタイルを提案し、そして、そこから「対話、話し合い、物議、ハーモニー」が生み出される事を望んでいるのだ。

最高の天気

ラウンジ
今年の会議は、その意味では成功をおさめていたと言っていいだろう。空は晴天、おしゃれでクールなラウンジ・エリア。ゲスト・スピーカーと大勢の興味津々な若手デザイナーたち。会場は活気にあふれ、最高のDJとドイツ・ビールがその雰囲気に花をそえていた。招かれたほとんどのゲストは、フリーランスのデザイナーでTOCA MEは重要なインスピレーションと情報交換の場になっていた。「たまには、日々の仕事から逃れて、他のデザイナーからインスピレーションを受ける事は大切だと思うね。彼らが有名か僕と同じような状況にいるかは問題じゃないんだ」とボリス(Boris)/ミュンヘン・27歳フリーランスデザイナー。

スケボーを楽しむニコとジョシュア

ジョシュア・デイビスが転ぶ瞬間
スピーカーの中には、スケボーの離れ技に挑戦するものもいて、そんな雰囲気もこのイベントをより活気のあるものにしていた。「スピーカーはみんな休憩時間にもココにいるよ。これはTOCA MEのコンセプトの一部でもあるんだけど、休憩中には、ゲストに近づいていって、おしゃべりする事ができるんだ。僕らの信条の一つだよ」とイーベル。

会場をわかせるジョシュア・デイビス

surface マガジンの ポストカード
©Joshua Davis
ジョシュア・デイビス(Joshua Davis )は、またしても、愉快な話で場を盛り上げてくれた。とくに、彼の「典型的な」クライアントであるアメリカのヘビメタ・バンド、トゥール(TOOL)とのミーティングについての話は、観客を笑いのうずに巻き込んだ。まず、4時間ものあいだ、バンドの稽古に立ち会い、その間にはもちろん、トイレに行きたくなる事もあるから、用を足しにいく。そのトイレというのが、多分バンドが組まれて以来、一度も掃除された事がないような代物で、そこになんと、ゴールドレコードとプラチナレコードが置かれているのだ(その表面にはベトベトした得体の知れないものが、層になっている・・・)そして、手短に、仕事について話し合った後、ミーティングの締めとして、射撃場で数時間にわたって、銃を撃ちまくるそうだ。もちろん、まじめな話もしてくれた。残りの時間は、特に「コンピュータによるデザイン」についての彼の哲学と、彼の「コンポジション・ジェネレータ」について語ってくれた。コンポジション・ジェネレータは有名だが、ほとんどの制作活動を、「手」でやる、という彼の告白は初耳だった。パターンとコンポジションを作る時になってはじめて、コンピュータを使うという事だ。クリエイティブであるという事について、「考えてる時は、たいてい間違った事をやってる時さ!」と話してくれた。

ニコ・ストゥンポ

ロブ・チュウ

ニコ・ストゥンポの作品 ©Niko Stumpo

ニコ・ストゥンポの作品
ニコ・ストゥンポ (Niko Stumpo)/オランダとロブ・チュウ(Rob Chiu)/イギリスによるプレゼンテーションは美しいの一言につきた。彼らの個人的なスタイルについてのプレゼンだったので、興味を持った人と、そうでなかった人がいたかもしれないが。ニコの制作活動は印象的なもので、彼のクリエイティビティはハリケーンのようにおさまるところをしらず、毎日毎日、たくさんのデザインを作り出している。しかも、忙しい合間をぬって、スケボーのテクニックを磨く事にも余念がないらしい。すばらしい!

ロブ・チュウ ©Rob Chiu
ロブは、マンチェスターにほど近いハッダーズフィールドに住み、制作活動を行っている。彼は、興味深い新しいテクニックを見せてくれた。手描きのドローイングとAdobe After Effectsの3D機能を合成させるというもので、この方法を使って、手描きの街の中を散歩する、といったイリュージョンを作り出す事ができるのだ。ロブと話をした時に、彼は特定のスタイルに凝り固まってしまうのが怖い、と話してくれた。「スタイルの罠に陥らないように気をつけないといけない。特に、一人で作業してる時にはね。」そんなわけで彼はプロジェクトを始めるとき、自分を制限せずに自由に始めるそうだ。しかし、残念ながら、彼のクライエントたちは、彼の「スタイル」を欲しがる。

エレクトロニック・シャドウ

エレクトロニック・シャドウの作品
エレクトロニック・シャドウ(Electronic Shadow)ーナジア・メスタウィ(Naziha Mestaoui)ヤシン・アイトゥ・カシ(Yazine Ait Kac)/フランスによるインスタレーションのプレゼンが行われた。ご存知な方も多いと思うが、彼らは昨年、日本の文化庁メディア芸術祭のアート部門で大賞を受賞した。エレクトロニック・シャドウとして活動する前は、ナジアは建築家の訓練を受け、ヤシンはアート・ディレクターとしてさまざまな広告代理店で働いていた。これらの異なるバックグラウンドは、彼らの作品にうまく反映されている。彼らの目標は、「空間、映像、人を融合させ、」「詩的なインスタレーション」を作す事だ。彼らにとって、「映像と空間は同じもの」である。

h2o ©Electronic Shadow
アートのインスタレーション以外に、商業作品についても話してくれた。 ジョルジオ・アルマーニのために「センス・スペース(Sense Space)」を制作したが、これは、店内につくられた特設スペースで、訪れた人々は、アルマーニの香水を幻想的なインタラクティブ空間で体験出来るというものであった。このアルマーニのためのインスタレーションを例にだし、彼らのほとんどの商業作品は、アート・プロジェクトに基づいて作成されていると説明してくれた。つまり、クライアントが、彼らの作品を見て、これを使ってなにかやってくれ、と頼まれる事が多いのだそうだ。

Hi-ReS!

Hi-ReS!の作品 ©Hi-ReS!
私にとっては、ハイレズ!(Hi-ReS!)/イギリスによる講演が最も刺激的だった。彼らのプレゼンは、デザインのスタイルについてではなく、どうアプローチするか、という事についてだった。まず、クリエイティブな仕事を請け負った時、いろんな可能性に対してオープンでいるよう心掛けるそうだ。例えば、PSPをヨーロッパの市場に宣伝するためのプロジェクトだが、ハイレズがこのデザインの難関のためにとったアプローチは、PSPの使い方や、楽しみ方、また形にまつわるイメージとコラージュを沢山作ることだった。また、このために、「携帯ゲーマーに気をつけて!」と運転手に注意を促す交通標識までつくってしまったのだ。
彼らにとっては、コンセプトがまず第一に考えられるべき問題で、スタイルはそれに付随するものだという。話を聞いていて、彼らのアプローチの仕方は、とてもドイツ的な感じがした。後に設立者の二人がドイツ人でオッフェンバッハ(ドイツでも、コンセプトデザインを知られる、デザイン学校)で学んだことを知った。 面白い事に、このアプローチ方法では、デザイナーはもっと自由にいろんなスタイルを試す事ができる。例えばハイレズは、有名なウォッカの会社「グレイグース(Grey Goose)」のブランド・アイデンティティとウェブサイトのデザインをした。ここで、彼らが使っているデザインは他のハイレズのどのプロジェクトとも似ていない。MTVのスタイル・ガイド(ストリート・アートからインスパイアされたようなスタイルを使って作られたもの)と同じデザイナーの作品とはとても想像できない。驚いた事に、ハイレズは「ナニカ(NANIKA)」とよばれる2つ目の会社の開設を公表したのだった。このナニカ(日本語からとった名前)は、インタラクティブ・デザインを中心にやっていくとのことだ。設立者の一人によると、「机上の作業から離れた」新しい会社を始める理由としては、自分たちのため、クライアントのために「この分野を強化して」いきたいから、との事で、この会社としてのプロジェクトの一つは、すでに有名なアンドレアス・ミューラー(Andreas Müller)の「For All Seasons」が挙げられる。
TOCA MEのモットー「舞台下も舞台上」から分かるように、ラウンジ・エリアにも、展示が行われていた。しかし、残念ながら今回のイベントの中で、一番エキサイティングじゃなかったのがココだと思う。イリアス・ハソス(Elias Hassos)/ドイツとケイト・アンド・カミラ(Kate and Camilla)/アメリカによる写真にはまったく心を動かされなかったし、革新的なアプローチとも、刺激的なアプローチとも言えるものではなかった。さらに、シューネ・ノイエ・キンダー(schoene neue kinder)/ドイツによるインタラクティブ・アートのインスタレーション作品も、そのコンセプトから言って1980年代のレベルと言わざるを得ないし、美のクオリティもたいしたものではなかった。
しかしながら、この展示会は、このイベントではメインとなるものではなかったから、ここでグチるのはやめておこう。講演と、(舞台下での)会話は、来場者のデザイナーたちを奮い立たせ、デザイナーって、世界で一番素敵な仕事じゃないかな、という気にさせてくれるものであった。
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